宇城市役所

平成29年という早い時期からRPA導入をしてきた宇城市役所。
自治体のRPA本格導入の先駆けとなっている同市に、導入検討のきっかけや、RPA導入の際の注意について、宇城市役所 総務部 市長政策室 行政経営係の松井さんにお話をお聞きしました!

宇城市役所インタビュー

導入のきっかけ

ー市役所というと、なかなか新しい試みを進めるのは難しい印象がありますが、RPA導入を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
松井さん(以下、敬称略):背景として宇城市内人口減少が進んでいることが挙げられます。将来の予想では、2040年には-22%人口が減少するという推計もありますし、伴って宇城市役所内でも職員の数が削られているのが現状です。
平成17年に不知火町、松橋町、小川町、豊野町、三角町が合併して、今の宇城市となったわけですが、その時点で670名程だった職員も、今は500名を切っています。

ー宇城市役所では約170名も職員が減少しているのですね。
松井:そうです。マンパワーが減っていて、それが顕著になったのが、熊本地震後でした。
平成28年4月の地震発生後、災害対策業務に人員や時間を割かれ、通常業務が進めにくくなってしまったんです。
解消策を考えた結果、職員の一人がRPAにたどり着きました。

導入の課題

ー宇城市役所でのRPA導入について、許可や費用面で課題になった部分はありましたか?
松井:熊本地震の影響もあり、職員が少しでも楽に、効率よく業務が進められれば、ということで、市長からはすぐにゴーサインが出ました。
費用については、総務省の「業務改革モデルプロジェクト」に「RPA等を活用した窓口業務改革」として応募し、無事採択された為、全額国からの補助で導入できました。

ーRPA導入の際に苦労した部分はありますでしょうか?
松井:まずは業務シナリオを作る際、人の判断が必要ないと思っていた部分で意図せず判断を下していたところですね。
例えば、登録されている住所と、住民の書く住所は完全に一致しないことも多いんです。

ー完全に一致しない、ですか…?
松井:例えば住所のマンション名などが「〇〇号室」として宇城市役所に登録されていても、申請書に書き込まれた住所が「〇〇号」だったりすると、100%一致、ではないので、機械は同じものとして認識してくれないんです。職員の判断で同じ住所、として認識していたんですね。
これによってRPAが動かなくなるなどのトラブルがありました。
RPAと住民票

ー実際に業務を行なっていると、業務を細かく拾い上げるのは普段意識していない分、根気が入りそうですね。開発していくにあたって感じたギャップはありますか?
松井:各業務の担当と、業者との間に宇城市役所の市長政策室が入ったのですが、
業者側は作業が一つでも抜けていると業務シナリオが作成できない為、手順を100%抑えたいものの、担当者はそもそもRPAの知識がなかったり、手順自体が纏まっていなかったりと各担当者と業者の間にギャップがありました。

ー期間はどのくらい掛かったのでしょうか。
松井:平成30年8月に業者と打合せを始めてから、実際に宇城市役所の業務に導入できたのは平成31年2月。期間としては半年程掛かりました。
一番時間が掛かったのはやはり、手順を引き出すことです。
業者が各担当の業務をヒアリングし、業務シナリオを作成していきました。

宇城市役所の業務手順は基本的に職員の頭の中に入っていて、今までそれで問題なく業務を進めていたのですが、業務シナリオ作成後、想定より条件分岐が多いことが実際にRPAを動かしてみてからやっとわかる、ということもあり調整に時間がかかりました。

ー業者の方と一緒に進めていったのですね。
松井:業者は開発体制、価格などの評価基準に基づいて選定しました。
ツールも、導入当初は業者の採用しているツールを用いてRPAを動かしていたんです。

使用ツール

ー実際に、どんなツールを使用したのでしょうか?
松井:宇城市役所では、平成29年に「ROBOWARE」、平成30年には「NICE APA」、令和元年には再び「ROBOWARE」を使用し、令和2年からは「MICHIRU RPA」を使用しています。

ー毎年違うツールを使っているのには、何か理由があるのでしょうか?
松井:令和1年までは、業者の使うRPAツールに合わせていたので、特に宇城市役所自体に理由はありませんでした。
しかし令和2年からは宇城市役所職員でも触ることのできるツールとして「MICHIRU RPA」を導入したんです。

参考:ROBOWARENICE APAMICHIRU RPA

導入業務を6業務に増加

ー平成30年度からの導入業務を6業務に増やす計画についてはいかがでしょうか?
松井:RPAが止まってしまった際に、宇城市役所の職員では原因がわからない、というところが課題になりました。
調整を全て外注では小回りも効きませんし、使用中に要望が上がったり、修正の必要がある場合に見積もりをし直す必要があります。

ー今年(令和2年)から導入した「MICHIRU RPA」も、そういった経緯があってのことなのでしょうか?
松井:「MICHIRU RPA」であれば、ある程度まで宇城市役所の職員で動かすことができる為、令和2年からの導入を決めました。「ROBOWARE」、「NICE APA」は細かいところまで調整したい場合、Ruby等プログラミング言語が必要だった為、職員では対応しにくかったのです。

ー削減された時間についてはいかがでしょうか。
松井:宇城市役所で平成29年に1業務導入した際は、年間349時間削減しました。
業務によって前後ありますが、平成30年の6業務導入に際しては、最大で年間1700時間程度が削減されています。

導入を進めた際の職員の反応

ー年間で大幅に時間削減されていましたが、導入後、宇城市役所職員の方の反応はいかがでしたでしょうか。
松井:導入後に感想を聞いたのですが、単純作業を機械に任せることによって今まで市役所の来客対応の合間に行っていた、システムからExcelに連携する作業において「どこまでやったっけかな」というところから思い出したり、集中力を削がれることがなくなった、という声も寄せられています。

ー効率化された時間は、どんなことに充てられているのでしょうか。
松井:来客対応や電話での問い合わせ、市民の方の行政相談にのるなど、宇城市役所職員本来の仕事に充てています。
本来の仕事に時間を避けるようになった、という部分で効果は出ています。

今後のビジョン

ー多くの時間を削減し、効率化を実行されていますが、宇城市役所で今後挑戦したいことなどありますでしょうか?
松井:市役所の業務は転入・転出届など、まだまだ紙ベースで行なっておりRPA化しづらい部分も多い為、ペーパーレスに今後とり組んでいければと考えています。

AIOCR(※)の選択肢もありますが、電子的に受け取れるに越したことはないので、まず電子化・ペーパーレス化を目指しています。
ハードルはあると思いますが、電子化を進めることによってよりRPAと連携しやすくなりますし、それでも紙で残る何%かはAIOCRを利用するなど、最先端の技術を駆使して宇城市役所の行政効率向上を図っていきたいです。
※AIOCRとは、手書きの書類などの読み取りを行いデータ化するOCRに、AI技術を活用する処理のこと。

AIOCRへの期待

ー業務効率化を図るにつけ、宇城市役所では次の一手はどういったものをお考えでしょうか?
松井:効率化の考え方を変えようと思っています。

ー考え方を変える、ですか?
松井:はい。今までは、RPA化できそうなものを職員に調査していましたが、今後は職員の業務を把握し、RPA化が効果的であればRPA、他のツールが効率的であれば、そちらを使って業務効率化を図っていきたいと考えています。
システム化できればシステム化し、業務全体の見える化に取り組んでいきたいですね。

ー現在、既にRPA以外で導入されているツールもあるのでしょうか?
松井:今年(令和2年)の1月から、職員間の連絡にチャットを導入しています。今までは内線やメールが主でしたが、お互いの時間を合わせたりしなければならないのが難点でした。

また、まだ導入はしていませんが、チャットボットを導入する予定もあります。
まずは職員間の問い合わせから実施し、うまくいけば市民の問い合わせも受け付ける予定です。

ー色々な取り組みを率先して行われているんですね!
松井:RPA、チャットボットに限らず、今後も積極的に最新の技術を取り入れていきたいと思っています。

ー他の市役所にも、RPAの導入はオススメしたいと思いますか?
松井:RPAに限らず、チャットなどの導入もぜひオススメしたいですね!(笑)

ー最後に、宇城市役所の松井さんからRPA導入を考えている方に一言お願いいたします。
松井:RPAは役立つツールですので、行政にも積極的に活用して欲しいのですが、業務改革やBPRが重要ということを忘れてはなりません。
業務改革の一環としてRPAが必要であればRPAを使う、その他のツールや業務の見直しが必要な場合は適宜それらを使用したり、見直しをかける必要があります。
上手く使い分けながら、業務改革をしていって頂きたいです。

ー宇城市役所 総務部 市長政策室 行政経営係の松井さん、ありがとうございました!!

宇城市役所HP:https://www.city.uki.kumamoto.jp/
参考記事:自治体通信ONLINE 自動化技術の導入で業務のスピードアップはもちろん職員の意識改革にもつなげたい