最近よく「DX人材」というワードを耳にしますよね。
DX人材の重要性を感じているものの、その育成方法に悩んでいる会社も多いのではないでしょうか?
はたまた、自分がDX人材になるには何をしたらいいかわからない…という方もいるのではないでしょうか?
日本企業がDXの取り組みに遅れをとっている要因として、DXの素養や専門性を持った人材が不足していることが挙げられます。
そんな中、酒類・飲料事業で知られるキリングループでは、DX人材の育成や採用に力を入れています。
例えば「DX道場」という独自の人材育成プログラムを導入し、ビジネスに近い現場の従業員の育成を目指しています。
そういった取り組みが評価され、昨年には経済産業省と東京証券取引所が発表した「DX注目企業2022」※に選定されました。
※「DX注目企業2022」:企業価値貢献部分において注目されるべき取り組みを実施している企業が選定。
今大注目のキリングループが行うDXの取り組みについて、経営企画部DX戦略推進室ご担当者様に質問させていただきました!
全2回で更新しているキリングループへの取材記事。
後編では、DX人材の育成方法や求められる人材像についてお届けします!
記事を読んだ方の課題解決のヒントになれば幸いです!
▼前編【今注目!キリンのDX推進方法と叶えたいビジョン】
参考:・経済産業省 【「デジタルスキル標準」をとりまとめました!】
https://www.meti.go.jp/press/2022/12/20221221002/20221221002.html
目次
1.DX人材の育成について
2.キリンDX道場について
3.DX人材になるためには
1.DX人材の育成について
DX人材の育成に力を入れるのは、どのような目的意識からなのでしょうか?
経営ビジョンでも掲げている通り、世の中のデジタルICTのテクノロジーが進化していく中で、お客様に対して価値を生み出していくためには、DXへの取り組みは必要不可欠です。
DXの取り組みを進めていく上では、お客様や現場に近いところで生まれるアイディアをもとに、事業・機能部門が取り組みを進めていくことが重要だと考えております。
しかし、従来の従業員の考え方・スキルではDXの取り組みをうまく進めることができないため、より多くの人財を育てていく必要があると考えておりました。
そのような考え方に基づき、私たちはデジタルの専門人財をデジタルICT部門のみに拡充していくのではなく、ビジネスの課題をデジタルで解決することを構想できる「ビジネスアーキテクト人財」を、ビジネスに近い現場で増やしていくことを目的として進めています。
社員のITスキルはもともと高かったのでしょうか?
生産部門や本社の一部機能部門など、業務で日常的にデジタル技術を活用しているような従業員はもちろんのこと、営業などの幅広い領域の従業員も含め、会社側から提供されたITツールを「使用する」スキルは有しておりました。
一方で、デジタルICT部門主導でデジタルに関わる業務をほとんど進めていたため、多くの事業・機能部門において、自らデジタルツールを業務で「活用していく」という発想にはあまり至っておりませんでした。
ですので、DXが自分たちの領域のものではないと考えられていたことが、課題であったと考えています。
2.キリンDX道場について
キリンDX道場とは…全従業員を対象としたキリングループ独自のDX人材育成プログラム。DXリテラシー及びスキル向上を目指し、白帯、黒帯、師範の3コースが開講されている。それぞれ所定の講義を修了し、認定試験を合格することで完了となる。 参考:キリンホールディングス ニュースリリース【DX人材育成プログラム「キリンDX道場」を7月から開校】https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2021/0709_03.html |
「DX道場」というユニークな育成プログラムが有名ですが、発足の経緯を教えてください。
DX道場は受講者が新しい知識を学ぶカルチャースクールではなく、明日からの自場所の業務で生かしてほしいと考えています。
このDX道場というネーミングは、”事業課題を解決する人財になるという意思と覚悟”を持ったうえで、道場の門を叩いてほしいという想いで命名しております。
前述の通りDXを推進していく上では、事業理解の深い従業員の課題意識やアイディアを起点にしながら、自律的に取り組みを進めていくことが重要だと考えております。
そのため、ビジネスの課題をデジタルで解決することを構想できる「ビジネスアーキテクト人財」を育成するためのプログラムである「DX道場」を2021年に開講しました。
全従業員を対象に募集を行い、DXの取り組みに対して熱意と意欲のある人財を現場で増やしていくことを優先して進めております。
また、事業や機能部門で必要な人財像と要員数を設定し、計画的な育成を推進しています。
現在「DX道場」では何人の育成が行われたのでしょうか?師範、黒帯、白帯の方は何人いらっしゃいますか?
2022年末時点で白帯:約1200名、黒帯:約600名、師範:約70名です。
毎回想定を上回る応募者が集まっております。
回を重ねるごとに応募者が増加しており、2022年の開催においては、約400名の受講枠に対して、1,000名を超える応募があり、受講枠の追加を行いました。
事業の現場においても、デジタル活用の必要性の認知が広がってきていると感じています。
道場ではどのような訓練を行うのでしょうか?
白帯はまずDXの正しい知識とDXを考えるにあたっての思考法と簡単なデータ分析を、黒帯からテクノロジーやツールの基本知識をインプットします。
このあたりのレベルで、自分の業務でどのようにデジタルを活用できるか考えられるようになります。
師範についてはより専門性を強め、自らツールやテクノロジーを活用できるようになってもらうことを目指しています。
講座内容はデジタルの必要性や発想法を理解するデジタル活用基礎から、ツールではAI・機械学習、ダッシュボード、ノーコードアプリを扱ったり、師範向けにはDX企画立案・案件推進、ダイレクトビジネスなどの領域も取り扱っております。
人材育成は多くの企業が直面する課題だと思いますが、貴社もはじめは育成に苦労しましたか?
今までキリングループではデジタルに関わる取り組みを主に専門部署で進めてきたという経緯もあり、DXについても「難しい」、「自分の領域ではない」という意識が社員に働いていました。
「DX道場」においては、「明日から業務に使える」というコンセプトのもと、使える知識を持ち帰ってもらい、デジタルのことを好きになってもらえるような設計を心掛けました。
そのため、独自の育成プログラムの設計には苦労をしてきました。
社内の実務に即した内容になるように、パートナー企業と協議して当社オリジナルのカリキュラムを作成しています。
社内の状況を考慮し、技術的な内容に偏り過ぎず、親しみやすさを重視しております。
また、「こんなことがデジタルで簡単に出来るんだ」という気付きを持ち帰ってもらうため、様々なツール・テクノロジーをワークで実際に手を動かして体験してもらうような講座設計にしています。
さらに、グループの状況や世の中のデジタル技術の活用可能性等も考慮した上で、講座内容やプログラム全体の設計を毎年アップデートしております。
3.DX人材になるためには
DX人材の採用にも力を入れているとのことですが、採用の際はどのようなスキルや知識が求められるのでしょうか?
当社では新卒採用・キャリア採用それぞれに注力して取り組んでいます。
新卒採用では、デジタルICTの素養をもつ学生に対して、専用のインターンシップや採用コースを設置し、専門人財採用を実施しています。
採用にあたっては、デジタルICTに関わる専攻や研究に携わっていたり、強い興味関心を持っているかということに加えて、課題を自ら発見したり、解決へのプロセスを描くことができるかという、構想力も見極めています。
キャリア採用は、単にデジタルICTに関する多様な経験・スキルを有しているかだけでなく、「DXの企画から実行までを一貫して取り組め、プロダクトを通じた成果の実感ができる」というメーカーならではのDXの醍醐味に共感できる方を採用しています。
事業会社のDX部署出身者・SIer・デジタル系コンサルティングファームなどから継続して獲得しています。
他社でもDX人材の需要は高まっていくと思いますか?また需要に対して供給は追い付くでしょうか?
デジタル化の流れ・テクノロジーの進化は益々加速している中で、企業としての持続的な成長を続けるために、デジタル技術を活用することは不可欠であり、高度な専門知識、スキルを有するデジタルICT専門人財に対する高い需要は継続していくと認識しています。
一方で、高度な専門知識が必要と言われているAIやデータサイエンス等のテクノロジーにおいては、近年では比較的簡単に活用できるパッケージツールやサービスが台頭してきているため、従来のようにデータ分析やAI開発そのものを実行する高い専門性だけでなく、
AIが導いたアイディアや仮説を正しく評価するスキルや、パッケージツールを業務プロセスの中にうまく実装していくスキルなど、DXを進める上で求められる知識やスキルも変わって来る可能性があると我々は考えております。
外部パートナーを活用するのか、人材育成や採用によって自社に人材を確保するのか、取り得る手段も複数ある中で、多様化するDX人材の需要と供給のバランスについて予測することは難しいですが、
当社においては自社が目指すビジョン、DXの方向性に基づいて、推進に必要な人材像と要員数を見極めた上で、外部リソース活用や内製化をうまく組み合わせていくことが重要だと考え、それぞれ取り組みを進めております。
今後社会から求められるDX人材になるためには、今からどのようなアクションを起こせばいいでしょうか?育成ノウハウを持つ貴社からアドバイスがあればお願いいたします。
DXの取り組みでは“企画構想力”が最も重要だと考えています。
デジタルを活用してプロセス変革を行うDXにおいては、テクノロジーの進化も速く、数多くのツールもあることから、「まずはどういう業務プロセスに変えていくべきか」と構想を描くことが重要です。
その構想を実現するために活用するものが、デジタルやツールという手段だと考えています。
デジタル技術の習得も重要ですが、
日頃から自身の関わる業務、事業の課題は何か、目指すべき姿はどのようなものか、それはどのような技術を活用すれば実現できるか、ということを絶えず考え続け、周りを巻き込みながら具体化していくことが、DX人財への第一歩ではないかと思います。
DX人材を育成するために、会社側が「学ぶ場所」を提供することの重要性を感じました。 「DX道場」には受講枠の倍以上の応募があることから、キリングループでは多くの社員がDXに興味関心があり、リテラシーの高さが伺えます。 DX人材と言うと、デジタルスキルの有無がイメージされやすく、自分には難しい…関係ない…と壁を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。 しかしまずは理解を深めることや、最後の質問でご回答いただいたように、自分の業務にデジタル技術を活用できないか思考することからはじめてみてはいかがでしょうか。 |
全2回でお届けしたキリングループの取材記事、いかがでしたでしょうか。
新しい学びや、気づきに繋がっていたらうれしいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
そしてなによりご対応いただいたキリングループご担当者様、ありがとうございました!
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