“DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)”
日清食品グループではこのスローガンを元に、全社をあげて現場主導でデジタル化推進に取り組んでいます。
このスローガンには「デジタルだからと言ってIT部門に任せきりにせず、社員一人一人が自主的に業務を見直し、デジタルを勉強・活用していく組織文化をつくっていく。」という強いメッセージが込められているそうです。
内製化にあたり必要になるのが、デジタル化を推進する人材ですよね。
日清食品グループでは現在、人材育成に向けた様々な施策に取り組んでいるとのこと。
独自のチェックリストやブレストの方法など、日清食品ホールディングス(株)情報企画部 デジタル化推進室 室長 山本達郎さんに教えていただきました!
全2回で更新する今回のインタビュー記事。
第2回は、デジタル化を推進する人材の育成方法や、現場社員の声、過去の苦労から学んだ伝えたいメッセージをお届けします!
山本さんは2012年より経営戦略部、Business Innovation室にて業務プロセス改革に従事した後、2018年にRPAプロジェクトを立ち上げ、全社の業務自動化を主導。
そして、2021年にデジタル化推進室を新設し、RPAやローコード開発ツール等の技術を駆使した業務のデジタル化を推進しているとのことです。
様々なデジタル化プロジェクトを主導してきた山本さんは、まさに“立ち上げ屋”…!
そんな日清食品グループのデジタル化推進を最先端で担う山本さんに、これまでの活動について伺いました!
▼第1回【日清食品グループ、社員全員デジタル武装せよ!現場主導でデジタル化推進するわけ】
目次
- 8つの重点領域
- 39カ条のチェックリスト
- アイデア創出ブレスト
- 活動ランクのスコアリング
- RPAプロジェクトの立ち上げ
- これからRPAを推進しようとしている方へ
デジタル化を推進する人材育成
2022年3月実施の社内アンケートにて、「働き方改革やDX推進を妨げている要因、また困っていることがあれば教えてください」という質問をしました。
社員から多くあがったのが「推進できる人材やITスキルが足りない」「本務が忙しくて手が回らない」「関連部署との連携が難しい」といった課題です。
これに対し様々な施策を実行することで現場の課題を解決しつつ、推進リーダーや開発者を育成していきたいと考えています。
推進リーダー育成の施策
推進リーダー育成を目的として、業務改善・デジタル化を成功に導く“8つの重点領域・39カ条のチェックリスト”を開発中です。
過去の成功・失敗体験から、業務改善・デジタル化を成功に導く方法論やノウハウを8つの重点領域・39カ条のチェックリストで定め、推進リーダーが実践することでプロジェクトの成功確率を上げていく施策です。
8つの重点領域
業務改善・デジタル化を成功に導く8つの重点領域を設定しました。
モチベーションは全ての領域に対して行動する原動力となるので、核となる重要な領域と位置付けています。
39カ条のチェックリスト
重点領域ごとに洗い出した計39個のチェック項目と、活動ランク、標準フォーマットを整備し、推進リーダーが実践していきます。
39カ条のチェック項目ごとに1~3のランクが設けられており、ランク1が最も成功確率を上げる活動だと定義し、自らの活動を振り返り、ランク1に該当する場合は5点、ランク2は3点・・・などどんどん点数をつけていきます。
標準フォーマットは、プロジェクトを推進していくために必要なロードマップやプロジェクト管理などを標準化したり、成功確率を上げるノウハウがつまったフレームワークを整備しています。
これを使い推進リーダーが実践していくことで成功確率を上げていくことを想定しています。
業務調査・施策立案領域におけるチェック項目の一つに「課題が整理できているか」があります。
この項目の活動ランク1(5点)の活動は「デザイン思考を取り入れたアイデア創出ブレインストーミング(以下、アイデア創出ブレスト)を実施し、業務担当者の不満、要望などを課題でグルーピングして整理している」です。
では、「アイデア創出ブレスト」についてご紹介させていただきます。
アイデア創出ブレスト
- アイデア創出ブレストの基本ルール
心理的安全性を担保するためにルールを設定し、話しやすい空気を作ります。
参加者が改善候補業務に関する「思考」「不満」「要望」を自由に発言し、参加者全員で発想を膨らませていきます。
ブレストの基本ルールとして、まずは「制約事項なしで自由に発言してもらうこと」です。
技術的に難しい、社内で通らないといった思惑は一切なしで自由にたくさんの意見を出してもらいました。
次に「質より量を意識すること」です。気の利いたことを言おうとするとなかなか言葉が出てきません。思いついたことをなんでも話してもらいました。
また、「他者の発言を褒める、のる、間違っても否定しないこと」も大事です。
否定されると萎縮してしまい、それ以上意見が出てこなくなるため、そこは徹底しました。
あとは「ゲーム感覚で楽しくやること」を伝えました。
シーンとした中では発言がしづらいので、参加者みんなが協力して話しやすい空気をゲーム感覚でたのしく実施していきました。
「事前に発言内容を考えておくこと」も重要です。当日いきなりブレストをすると意見が出てこないことも多く、事前にテーマを伝え発言を考えてもらうことで活性化させました。
このようなことを基本ルールとしてブレストを実施していきました。
- ペルソナの設定
「ペルソナ」を設定することで、ブレストの効果を向上させることができます。
改善意識の高い人物像を設定し、ブレスト参加者がその人物=ペルソナになったつもりで発言します。 (ペルソナは、名前、年齢、性別、趣味、性格、働き方などを詳細に設定)
参加者は、改善意識の高い人物の目線で現状の問題点を捉えられるようになります。
また、属性が同じでありながらも微妙に異なるペルソナをそれぞれの参加者が想像するため、多様な視点からの発言を引き出せます。
営業部門で実施したところ、ゲーム感覚でブレストが盛り上がり、新たな発想に結び付きました。
- アイデア創出ブレスト・課題のグルーピングと施策立案
ブレストで洗い出した「思考」「不満」「要望」を課題ごとにグルーピングしました。
グルーピングした課題とそれに対する主要施策を詳細立案するというプロセスで進めます。
活動ランクのスコアリング
最後に活動ランクのスコアリングです。
各領域の活動ランクを集計し、自らの活動を振り返り改善することで成功確率をあげていくことを想定しております。
この繰り返しが推進リーダー育成につながると考えています。
開発者育成の施策
- スキルマップ
スキルマップを作成し、RPAやローコード・ノーコード開発に必要なスキルを定義しています。
スキルマップの達成度合いに応じて3段階(初心者、初級者、中級者)あり、レベル別に教育プログラムを整備することで、IT知識に自信がない社員でも着実にスキルを身に付けていけるようにしています。
- 空いた時間で自習できるポータルサイト構築
本務で忙しい社員が、空いた時間に短時間で自習できるポータルサイトを構築しました。
主なコンテンツとしては短時間で学習できる教材や、ワンポイント動画、開発しているときにやりたいことの検索、AIチャットボットによるQ&Aを整備しています。
私の活動の経験上で、“スキルは「教えてもらいながら」では伸びない。「自習」で伸びる”と考えています。
今後ポータルサイトのコンテンツを充実させることで、社員の自習を促進し、スキル向上を図っていきたいと考えています。
- 社内資格試験開発
スキルを身に付けた社員がチャレンジできる社内資格試験(初級・中級)を開発中です。
合格者を人材データベースに登録することで、開発者のモチベーション向上につなげていきたいと考えています。
今はUiPath、kintoneの社内資格試験を作っていますが、今後ツールをどんどん追加していきたいと考えています。
- 社内報で特集
社内報で営業領域のデジタル化を推進しているセールスの“想い”や活動について、全9回にわたって特集し、社内に対して熱い気持ちなどを生き生きと話していただきました。
このような頑張っている人にスポットライトが当たる働きかけも、デジタル化推進室の重要な役割だと思います。
モチベーションをどんどんあげていき、現場主導の活動を加速させていきたいと考えています。
デジタル化推進室の取り組み紹介を取り上げた社内報へは、多くの社員がアクセスして読まれており、業務改善・デジタル化への関心が社内で高まっていると感じています。
どんどんデジタル化推進室でこの活動を推進していき、拡大していきたいと考えています。
デジタル化を推進する現場社員の声
開発に対する意識の変化
- IT部門以外の部門でもある程度習熟すれば、自分たちで開発・運用することができると感じた。
- 「デジタル」という言葉自体に苦手意識があったが、最近はワクワクしながら開発に取り組んでいる。
- 開発したアプリやロボットがうまく動いた時が楽しい。もっと学びたい。もっと使いこなしたい。
周囲の変化
- 部内の雰囲気が変わり、そもそもこの業務が必要なのか、効率化できないかという声がでるようになった。
- 企画Gが講師となり、他チームに対して、勉強会や知識共有会を実施している。
課題
- 複雑な業務やフォーマットに対応するのは馴染まないと感じている。対象とする業務をある程度選定する必要がある。
- ローコード開発やRPA開発は一つの手段でしかなくて、業務の見直しが重要だと思う。
成長
- 普段あまり接することのないマネージャークラスの方々とも会議で意見交換するので、より高い視座で物事を考え、自己成長できるチャンスと捉えている。
- 他部門の業務にも目を向けることで視野が広がり、自らの成長につながっている。
こういった声が広がることで組織が活性化し、生産性が上がります。会社も社員も成長していく雰囲気や文化を、どんどん作っていきたいです。
今後も現場部門とIT部門の連携を強化し、現場が主役、現場が輝くデジタル化を推進していきます。
これが我々の考えている『DIGITIZE YOUR ARMS』です!
これまでの経験から伝えたいメッセージ
RPAプロジェクトの立ち上げ
2018年4月、RPAプロジェクトを立ち上げました。当初はとても苦労しました。
その頃RPAはまだ国内であまり広がっていない状況で、本当に使えるか半信半疑な上に、予算も少なく人手もありませんでした。
そういった厳しい状況でしたが、有志で集まった4部署で自部署の予算枠から少しずつ費用を出し合い活動を始めました。
この時様々な問題を抱えながらも、「一緒にやろう!」と言ってくれた仲間がいたからこそ今があると思います。
最初に4部署で13個の試作ロボットを作り、2018年5月に社内イベント「RPAスタートアップ」を開催しました。
まずは聞いて、見て、触って、RPAを理解してもらおうと思いました。
RPA講演会の実施や、食堂で試作ロボットの展示を行い、外部ベンターさんにも協力してもらいOCR×RPAのロボットも並べました。
このように聞いて、見てもらい、最後に研修会で触っていただきました。
このイベントには経営トップにも来てもらい、社内全体の理解を示してもらいました。
そこから少しずつRPAが浸透していき、当初のスモールスタートから拡大して今に至ります。
これからRPAを推進しようとしている方へ
もちろん現場社員自ら開発すると、上手くいかないこともあります。
そんな時デジタル化推進室が大事にしているのは、今は“過渡期”であるというマインドです。
近年ではプログラミングが必修化されていますし、2025年度からは大学入学共通テストにプログラミングの内容を含む教科の試験が設置されます。
今後、現場社員自ら開発することが当たり前になる時代は必ずやってきます。
うまくいかないことがあっても、近い将来やってくる未来を見据えて推進していくことが重要だと思います。
RPAプロジェクトを立ち上げてから色々なことがありましたが、粘り強く継続してやってきたことが、今に繋がっていると考えています。
ですので、もしこれからRPAを進める方は是非「諦めずに粘り強く」進めていただきたいというのが私からのメッセージです。
一気に拡大することは難しく、我々もスモールスタートで少しずつ体制を作っていったので参考になれば幸いです。
今では全社をあげてデジタル化に取り組んでいる日清食品グループですが、RPAプロジェクトはたった4部署からのスタートだったとは意外でしたね! また、推進リーダーの育成では、ブレストで仲間たちと楽しみながらアイデアを生み出す工夫がされていて参考になりました。最後にはスコアで客観的に活動を振り返ることができ、確実な成長に繋がりそうです。 人材育成の施策や社員の声から、着々と社員のデジタル武装が進んでいるのが伝わりましたね! |
全2回でお届けした今回のインタビュー記事、いかがだったでしょうか。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
そしてなによりインタビューに応じてくださった山本さん、ご協力いただいた関係者様、ありがとうございました!
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