「カップヌードル、何味が好き?」
みなさんもこんな会話したことがあるのではないでしょうか?
世界初の“即席麺“を生みだしたことで知られる日清食品グループ。
自炊をしない筆者は、日頃からカップ麺など様々な商品で大変お世話になっております…!(ちなみに好きなカップヌードルの味はチリトマト)
そんな日清食品グループでは、“DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)”というスローガンを元に、全社をあげて現場主導でデジタル化推進に取り組んでいます。
その取り組みについて詳しいお話を伺うべく、日清食品ホールディングス(株)情報企画部 デジタル化推進室 室長 山本達郎さんに取材させていただきました!
山本さんは2012年より経営戦略部、Business Innovation室にて業務プロセス改革に従事した後、2018年にRPAプロジェクトを立ち上げ、全社の業務自動化を主導。
そして、2021年にデジタル化推進室を新設し、RPAやローコード開発ツール等の技術を駆使した業務のデジタル化を推進しているとのことです。
様々なプロジェクトを主導してきた山本さんは、まさに“立ち上げ屋”…!
そんな日清食品グループのデジタル化推進を最先端で担う山本さんに、これまでの活動について伺いました!
全2回で更新する今回のインタビュー記事。
第1回は現場主導でデジタル化推進する背景や、活動事例、使用ツールや専門組織「デジタル化推進室」についてお届けします!
目次
- 現場主導でデジタル化する背景
- 日清食品グループが採用しているRPA、ローコード・ノーコード開発ツール
- RPA活動紹介/営業部門の事例
- kintone導入の背景
- 専門組織「デジタル化推進室」について
- kintone開発の推進体制
- RPA開発・管理体制
- デジタル化推進室のロゴに込められた思い
現場主導でデジタル化する背景
日清食品グループは常に新しい食の文化を創造し続ける『EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)』として、環境・社会課題を解決しながら持続的成長を果たすという独自のCSV経営を展開しています。
CSV経営における中長期成長戦略ストーリーとして、「既存事業のキャッシュ創出力強化」「新規事業の推進」、「EARTH FOOD CHALLENGE 2030 (有限資源の有効活用と気候変動インパクト軽減へのチャレンジ)」の3つを成長戦略テーマとして掲げています。
この3つの成長戦略テーマを実現するためには事業構造改革が不可欠であり、全社活動テーマ「NBX」(NISSIN Business Transformation)を掲げ、ビジネスモデル自体の変革に加え、効率化による労働生産性の向上に向けたさまざまな取り組みを進めております。
改革のポイントとなるのが「社員の意識改革」です。日清食品グループでは経営トップから全社員に向けて次のようなスローガンが打ち出されております。
“DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)”
デジタルだからと言ってIT部門に任せきりにせず、社員一人一人が自主的に業務を見直し、自らデジタルを勉強して活用する組織文化の形成、意識改革の必要性を訴えております。
このメッセージを経営トップ自ら朝礼や社内報などで発信することで、社員の意識改革を促しました。
そういった背景から、日清食品グループでは現場社員自らRPA開発やローコード、ノーコード開発にチャレンジして、業務改善・デジタル化を推進しています。
その効果として、これまで約180種類の書類に対して年間28万枚分のペーパーレス化とハンコレス化に成功、また決裁書の申請から承認完了までのリードタイムを約20営業日から約4営業日まで大幅に短縮しました。
約500業務を対象に、現時点で年間10万時間の業務工数削減に成功しました。
現場主導で日々開発を進めているため、今後も効果は積みあがっていく見込みです。
日清食品グループが採用しているRPA、ローコード・ノーコード開発ツール
主に3つのツールを使っており、それぞれ最適な領域で使い分けています。
- UiPath:PC上の単純操作を自動化
- kintone:ワークフローの電子化、電子承認、データの蓄積、一元管理できるアプリ開発
- Power Apps:スマホでのデータ検索、閲覧、追加、変更、削除ができるモバイルアプリ開発
💡選定時のポイント・基準とは?21社へのヒアリング・6システムのプロトタイプ検証を経て、システム選定を実施
①現場社員が扱えるツールであること ②機能的充実度や今後のアップデートへの期待感 ③グローバル展開の実績 ④ユーザー調査にてUiPathが様々な項目で他を上回っていたことから、安心して使えるツールだと判断
①レスポンス含めたユーザビリティが高いこと ②モバイルでの利用に適していること ③クラウドネイティブなサービスであること ④自社メンバーのみでシステム開発が可能であること |
RPA活動紹介
RPAはシステム開発するには費用対効果が低く、人手で頑張るしかない小さな業務を短期間、低コストで自動化する役割として採用しています。
システムからのデータダウンロードやExcelへの転記・加工、メールの作成、システムへの入力やデータチェックなど、幅広い業務で活用しています。
しかし、単純に目の前の作業をRPA化するだけでは「効果は限定的」だと思っています。
そこで大きな効果を生み出している営業部門の事例をご紹介します。
営業部門の事例
同グループの中核事業会社である日清食品では、全国8ブロックの営業拠点からプロジェクトメンバーを選抜、日清食品ホールディングスのIT部門と連携してセールス業務の業務改善とデジタル化を推進中です。
8ブロックそれぞれに業務改善リーダー、デジタル開発者、デジタル管理責任者という役割を定めました。
プロジェクトのポイントは、最初からRPA化の検討を始めるのではなく、業務全体の見直しから実施することです。
やはり「RPAを入れるためにどうするか」などRPAが前提となってしまうと非効率な業務を見過ごしたり、無駄なプロセスをそのまま自動化してしまうからです。
RPA開発ではまず業務調査を行い、不要な業務の廃止や、標準化、重複業務の整理、簡素化などを検討していきます。
その上でシステム開発・改修などをしていき、最後に残った「手作業」をRPA化します。
営業マンから事務担当者に業務を移管・集約してRPAを実行することができれば、より大きな効果を生み出すことができます。
将来的には、RPA技術を活用した未来として「ハイパーオートメーション」を実現していきたいと考えています。
RPAを神経系として、複数の機械学習、パッケージソフトウェアなどを組み合わせて、人間が行っていた一連の業務を自動化し、人間は人間にしかできない付加価値の高い業務に注力する世界を目指しています。
kintone導入の背景
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年2月に国内グループ約3000名を原則在宅勤務へ移行、早急なペーパーレス、ハンコレス化が求められました。
その中でkintoneを活用し、社内の決裁書や申請書のワークフローを電子化、スマートフォンで承認可能にしました。
はじめはIT部門中心となって開発していましたが、加えて現場社員自らkintoneアプリ開発を行うことで、ペーパーレス、ハンコレス化が加速しています。
こうした取り組みは、年に1回開催される社内表彰制度「NISSIN CREATORS AWARD」で、創造性や会社への貢献度を評価されて優秀賞を受賞しました。
現在も、社内各セクションでkintoneによるアプリ開発が進められています。
このように現場社員によるRPA開発、アプリ開発が進んだことで、IT部門はシステム間連携などを要する高度なアプリ開発に取り組めるようになりました。
今後はスマートフォンでも活用できるモバイルアプリ開発を進め、どこからでも業務が遂行できる環境を構築していきたいと考えています。
またRPAやローコード・ノーコード開発ツールを活用した“現場主導のデジタル化推進”により、システム開発の内製化が進み、現場部門主体で短期間・低コスト開発を実現し、急激な事業環境の変化に対してもスピーディかつ柔軟に対応できるようになりました。
こうした一連の取り組みによる成果に手応えを感じ、推進力をより強化するため、2021年10月、IT部門である情報企画部内に「デジタル化推進室」を新設しました。
専門組織「デジタル化推進室」について
デジタル化推進室の体制
デジタル化推進室には2つのチームがあり、全体統括を私が担当しています。
- ローコード・ノーコード・RPA開発支援チーム
現場開発者の育成や開発支援、高度なアプリ開発を行っています。
- 業務改善・デジタル化支援チーム
現場部門にデジタル化に関する企画を提案し、自ら現場に入り込んでプロジェクトマネジメントを行っています。先ほどの営業部門の事例もこちらのチームが実施しています。
現在は、営業領域やR&D(Research & Development:研究開発)領域を支援しており、今後は支援領域の拡大も視野に入れております。
ローコード・ノーコード開発で目指すこと
- アジャイルアプローチ
事業環境の変化に耐性のあるシステムを提供するため、アジャイルアプローチを取り入れております。
アジャイルで開発することによって、現場の課題を迅速にシステムへ反映して、仮説検証をスピーディーに繰り返していきます。
ユーザーの意見を取り入れながらシステムを改良するのが理想だと考えています。
- 内製思考
日清食品グループ内で企画から構築、運用までを実施できるよう、外部のSIerに開発を委託するのではなく、技術支援や開発ノウハウを提供してもらうことで、社内にノウハウを蓄積する「内製思考」を基本としております。
また2点に加えて現場主導のデジタル化推進を実施することで、現場部門自らが課題を見つけ、考え、実際に解決することを通じ「デジタル化に取り組む社内文化を醸成すること」を目指しています。
このような考え方を形にしたのが、kintone開発の推進体制です。
kintone開発の推進体制
まずは現場が主役です。現場部門が業務要件の整理やシステム開発、ユーザーとのコミュニケーションを実施しています。
一方でIT部門は現場のサポートをする役目です。システム環境の提供や、アプリ開発のレクチャー、ガバナンスのコントロールなどが重要だと考えています。
また、外部の知見も取り入れています。
kintone導入当初はノウハウが社内になかったため、知識のある人材へ協力を仰ぎました。
また、Sierにも支援いただいておりますが、関わり方は従来と大きく変わってきています。
開発は一切行わず、わからないことがあった場合に教えていただくスタンスです。
基本はチャットで質問・回答、それでも解決しない場合はWeb会議で画面共有しながらその場でスピーディに解決していきます。
ただし、次回以降は自社内で対応できるようにすることが重要で、社内にどんどんノウハウを蓄積していき、内製化を進めていきます。
また、問い合わせに対して即答できるスキルの高いエンジニアをアサインいただいています。
これらにより、生産性の高い体制を実現しています。
このモデルは今後の、ローコード・ノーコード開発のベースになっていくと考えています。
ただ、現場部門でどんどんアプリを開発していくと、“ノラアプリ”やセキュリティの問題などが発生するリスクも高まりますので、アプリの管理も重要です。
日清食品グループでは、全アプリの稼働状況を一元管理するアプリをkintoneで開発しています。
これは各部署でアプリ作成すると自動的にレコードが作成され、毎日夜間にデータを自動更新する仕組みになっています。
また、開発・運用ルールも徹底しています。
PRA開発・管理体制
デジタル化推進室の開発支援によって、現場社員がロボット開発を行います。
開発・運用ルールを記載したガイドラインを作り、それに沿って運用を進めています。
RPA対象業務はすべて内部監査室でレビューしており、ロボット開発が完了したらすぐに運用開始ではなく、34個ある開発ルールをチェックした上で運用開始しています。
34個あるというと管理が大変そうだと思われるかもしれませんが、開発ルールをチェックすること自体をRPAで自動化しています。
RPA管理体制としては、統制管理ツールを入れて、ロボットを集中管理・監視する体制を強化しています。
推進するだけでなく、管理体制を強化していくことも専門組織であるデジタル化推進室の大きな役割となっています。
デジタル化推進室のロゴに込められた思い
UiPath、kintoneはドラッグアンドドロップで部品を組み合わせて開発するので「パズルのようだ」という意見がありました。
このロゴには、「みんなでパズルを組み立てるように、アプリやロボット開発も楽しく作っていこう!」という思いを込めています。
デジタル化というと、現場部門には難しいイメージを持たれることも多いため、ロゴなどを活用し、「誰もが楽しくチャレンジできる土壌づくり」を進めております。
今回お話を聞いて、業務のデジタル化は「現場社員が主役だ!」という思いが強く伝わりました。 サポートは専門組織がしっかりしてくれるので、やってみよう!チャレンジしてみよう!と思わせてくれる組織体制が良いですね。
また、キャッチコピーやロゴマークなどを用いて、デジタル化を推進しているのが印象的でした。デジタル技術にハードルの高さを感じている人にも、伝わりやすいような工夫がなされています。 これから社内でデジタル化を推進しようとしている方も、参考になったのではないでしょうか?
設立からまだ2年もたっていない「デジタル化推進室」。 すでに大きな効果を生み出しているとのことなので、今後さらにどんな活動をするのか楽しみですね! |
ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回はデジタル化を推進する人材の育成方法や、現場社員の声、山本さんが過去の苦労から学んだ伝えたいメッセージをお届けします。
今では全社をあげてデジタル化推進に取り組んでいる日清食品グループですが、山本さんがRPAプロジェクトを立ち上げた当初はたった4部署でのスタートだったそう…
その経験から今でも大切にしているマインドとは…!?
次回も是非ご覧ください!
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