私たちの手がける食の世界でも、

2020年から2050年までの30年間に、

大きなパラダイム・シフトが起きるはずだと考えています。

今まさに、世界中のフード・システムが、

がらりと変わろうとしている。そんな時代に、

事業を立ち上げて関わることができるのは、

とてもおもしろいですね。


 そうした時代の中で、私たちは、

『食のインフラストラクチャー』のアップデートに携わり、

『食の多様性』をつくりだしていきたい。

持続可能で多様な世界の創出や社会課題の軽減に

貢献していける——そういう力のあるブランドと商品を

つくっていきたいですね。そして、

『日本発』だという出自も大切にしたいと考えています。

 

2021年にシンガポールで、2022年に東京・台東区で創業したばかりの株式会社UMAMI UNITED JAPANは、「日本古来の技術や食材、UMAMIという世界に誇る味覚に着目し」、誰もがひとつの食卓を囲んでともに食事を楽しむことができる「ワン・テーブルの世界」を実現し、「新たな未来の価値創造」を目指して、植物性原料100パーセントの粉末代替卵「UMAMI EGG POWDER」などの製品を開発・販売するベンチャー企業。現在30歳という若き創業者兼CEOに、東京・田原町の本社で、起業までの道のりから現在、そして今後の展望を聞く。

 

取材・構成=川出絵里、シニア・エディター、『RPA MEDIA』
INTERVIEW & EDIT BY ERI KAWADE, SENIOR EDITOR, RPA MEDIA


 

UMAMI UNITED JAPAN 代表取締役社長 山﨑寛斗

All the images: Courtesy of UMAMI UNITED JAPAN CO., LTD.

 

 

まずは卵に代わる

「プラントベースフード」から

 

——植物性原料100パーセントの粉末代替卵「UMAMI EGG POWDER」や卵黄の味わいを感じさせるシーズニング・パウダー「UMAMI EGG FLAVOR」などの製品を開発・販売なさっていますけれども、まず最初にお聞きしたいのですが、卵に注目なさったのはなぜでしょうか?

 

山崎 「そもそも私たちの会社は、経営理念として、『ONE TABLEで未来を創る』というミッションを掲げて、事業をスタートしておりまして、いろいろな食の問題や志向性、バックグラウンドを持った方々が、誰しも、垣根を超えておいしく味わえる食のあり方をご提案したいと考えています。たとえば、アレルギーを持った方々や、宗教的な理由をはじめ、文化や慣習、主義・主張などの理由から、特定の食べものを食べないという選択肢を選んでいる方々であっても、楽しんで食べることができる、そんな『ひとつの食卓』のイメージです。

実際、ヴィーガン(植物由来成分100パーセントの食事を選択する人びと)の方々であったり、卵をはじめとする特定の食品へのアレルギーを持つ方々であったり、日本でも世界でも、大勢いらっしゃるわけです。そんななか、そうした事情を持つ方でも食べることができる、植物由来素材のみでできた新しい食品『プラントベースフード(plant-based food)』は、今の世の中で非常に求められているという状況が、まず前提としてあります。お肉の代替食品としては、大豆ミートがあったり、乳製品の代替食品では、豆乳やオーツ麦からつくられたオーツミルクがあったりと、いろいろと選択肢が広がってきているなかで、卵は、プラントベースフードの代替食品が、いまだ、つくられてこなかったのですね。卵アレルギーの方々が大勢いて、さらには、鳥インフルエンザが起こった場合の鳥の殺処分に伴う卵不足の問題があったりと、代替となる植物製品が存在しないと、非常に困る方々の多い素材であるにも関わらず、まったく存在していなかったのです。そこにまず着目しました。端的に言うと、世の中にニーズがあり、新しい素材が求められているのにも関わらず、それに対するソリューションが存在していないということから、『では、卵に着目して、フォーカスしてみよう』とプロジェクトを始めたという流れです。」

 

――実際、日本に限らず、世界の多くの土地でそうだと思うのですが、卵は、日常的に非常に頻繁に食べられている食品ですよね。そのわりに、たしかに、お肉は大豆ミートなどかなり普及しているのに、卵の植物由来代替食品は、見たことがありませんでした。

 

山崎 「大豆の場合だと、どちらかというと、アレルギー以上に、環境負荷の問題への配慮や宗教的な理由からお肉を食べない方が多いのですが、大豆ミートは、それなりに普及して、スーパーなどでも販売されていますよね。ところが、卵の代わりになる新しい素材はありません。実際、卵を使わないとなると、つくれない料理やお菓子はたくさんあるのですね。それが今のマーケットの現実です。なので、まずは卵の代わりになるプラントベースフードから提案していこうと考えました。」

 

UMAMI UNITED JAPANのウェブサイトのトップに登場する企業ミッションと「UMAMI EGG POWDER」を使った料理のイメージ。

「UMAMI EGG POWDER」。

 

――なるほど。今、ご用意いただいているこちらの粉末状の「UMAMI EGG POWDER」。これを使って、ふつうの卵を割って、ほかの材料とかき混ぜて、フライパンに流し込んで焼くとか、そのような感覚で、いろいろなお料理に手軽に使えるのですね? 御社のホームページでも、米粉パン、パンケーキ、ハンバーグのつなぎやナゲット、お好み焼きにワッフル、カップケーキにオムライスに卵サンド、カスタード・クリーム、スポンジケーキ、フレンチトースト、カヌレなどなど、いろいろなレシピを紹介なさっていらっしゃいます。

 

山崎 「そうです。この動画でごらんいただくとわかりやすいかな。ほかの材料と混ぜて、簡単にお好みの方法で料理していただくことができます。豆乳と混ぜてフライパンで加熱すると、オムレツやスクランブルエッグになりますし、焼き菓子などの製菓材料としてもお使いいただけます。卵フリーのマヨネーズやドレッシング、アイスクリームなどをつくっていただくことも可能です。」

 

――おお! ふわふわに焼き上がっていますね。「UMAMI EGG POWDER」の原材料は、御社のホームページにも記載されていますが、ここで読者のみなさんのためにご紹介させてください。

 「こんにゃく粉(国産)、タピオカスターチ、ニュートリショナルイースト、かぼちゃ粉末、みかん粉末、岩塩、きくらげ旨味パウダー、にんじん粉末 / ゲル化剤 (アルギン酸ナトリウム、カラギナン、ローカストビーンガム)、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム」。そして、「アルギン酸ナトリウムとカラギナンは海藻から得られる多糖類です。ローカストビーンガムはカロブ豆から得られる多糖類です。硫酸カルシウムと塩化マグネシウムは豆腐を作る際のニガリのような凝固剤として使用されるものです。」「原料として使用している『みかん粉末』は温州みかんを使用しており、アレルギー物質の対象となっている『オレンジ』とは種類が異なります。温州みかんはアレルギー物質の対象には指定されていません。」とのこと。

 とくにこだわった原材料があれば、詳しく教えていただけますか?

 

山崎 「こんにゃく粉ときくらげ旨味パウダーですね。こんにゃく粉を使うことで、保水性や凝固性など、卵という素材が本来持っているような機能性が非常に増して、再現性も増し、料理もきれいにできあがるのですね。きくらげ旨味パウダーのほうは、自社で研究開発・製造しています。卵の持つ硫黄のような風味やコクを表現するのに有効なのです。これらが、『UMAMI EGG POWDER』の原材料のなかでも、とくに鍵になっているものですね。」

 

――こんにゃくと聞くと、ダイエットにも良さそうですね。

 

山崎 「そうなんです。低カロリーで食物繊維が多く摂れる。コレステロールフリー。そういった点もポジティヴな側面ですね。ただ、それは2次的な要素で、私たちが注目したのは、なによりも機能性。加熱することで凝固する性質や保水性の高さです。

たとえば、卵の持つ食材の『つなぎ』としての機能。焼いて固める機能。こうした機能は、お好み焼きやパンケーキなどをつくろうと思うと、絶対に不可欠なものなのですね。この機能を、植物性由来成分100パーセントで再現するのは、途方もなく難しいのです。私たちも試行錯誤を重ねて、日本ならではの素材などを組み合わせて研究していった結果、こんにゃくに特殊な加工を施すことで、もともとの卵が持っていた機能性を再現し、商品開発ができたのです。」

同社のウェブサイト英語ページに掲載されているプロダクト紹介イメージ。

「UMAMI EGG POWDER」。

「UMAMI EGG POWDER」を使えばさまざまな料理や菓子をつくることができる。写真はスクランブルエッグ。

パンケーキ。

カスタード・クリーム。

米粉のカヌレ。

フレンチトースト。

米粉パン。

 

 

独自の研究・開発力で

卵が持つ「機能性」を再現

 

――研究開発も、御社内で、すべて進めていらっしゃるのですか?

 

山崎 「はい、そうです。」

 

――いつ頃からスタートなさったのですか?

 

山崎 「2021年の9月頃からですね。そこから半年弱、研究や試作品制作を重ねて、販売を開始したのが2022年の4月でした。」

 

――かなりの短期間に、驚くべき成果を上げられたのですね。開発の過程はどのようなものだったか、試行錯誤やそれらを乗り越えられたときの思いなど、教えていただけますか?

 

山崎 「そうですね。今、お話ししたような、卵の持つ機能性の再現が、やはりいちばん難しく、こだわった部分でしたね。卵にはいろいろな特徴があり、非常にバラエティ豊かな食材です。生のままでも食べられますし、ゆで卵やスクランブルエッグなど、さまざまな卵料理があるのに加えて、卵を使うことで、多種多様なお菓子やお惣菜もつくることができる。栄養価も高く、色も綺麗です。そういうさまざまな要素があるなかで、植物性成分100パーセントで卵の代わりになる食品をつくっていこうと決めたときに、では、卵の持つ特色の何を最優先して研究開発を進めていこうかと社内で議論した結果、私たちがもっとも重要視することに決めたのが、食材としての卵が持つ機能性だったのです。

というのも、卵は、実は、見えないところで、たいへん多くの食べものに使われている食材なのですね。ケーキやパンはもちろん、麺類などにまで。卵自体を食べたいから、ケーキや麺を食べるわけではありません。卵の持つ食材としての機能が必要だから卵が使われているケースが、実に多くあるのです。では、その機能を再現できれば、多くのシーンで卵を新しい食材に置き換えることが可能になる。

卵の持つ機能のなかでも再現がいちばん難しかったのが、加熱されて固まるという機能でした。私自身は研究者としてのバックグラウンドがあるわけではないですが、私たちの会社の開発担当者と話し合うなかで、『たしかに、多くの食材の場合、加熱したら溶けていく。逆に固まる食材は稀で、とても例外的なのだ。この特徴を再現するのは、本当に困難だ』と、痛感させられました。そこで、この特性にターゲットを定めて、いろいろな原材料やプロセスを試していった結果、こんにゃくの特殊な性能を活かせば、再現が可能だとわかってきました。開発のエピソードとしては、これがいちばんわかりやすい例かなと思います。」

 

――なるほど。とても例外的で難しい機能性の再現だったわけですね。

 

 

「UMAMI」へのこだわり……

「本当においしい」植物由来食品をつくる

 

――ところで、こちらの「UMAMI EGG POWDER」に加えて、「UMAMI EGG FLAVOR」という商品も開発・販売なさっていますね。いずれも卵黄の味わいやコク、「旨味」を味わえることも魅力的な商品とのこと。御社の社名にも「UMAMI」と掲げていらっしゃいますが、なぜ「旨味」にとくに着目なさったのでしょうか?

 

山崎 「私たちが新しい『プラントベースフード』をつくりだしていくにあたって、いちばんこだわりたかったことのひとつとして、『本当においしい植物由来食品をつくりたい』という想いがあったのですね。『プラントベースフード』や『アレルギーフリー食品』と言うと、どうしても、いまだに『何か物足りないカテゴリー』、つまり、『おいしさを犠牲にした特別食』という枠組みを超えきれていないケースが少なくないと思うのです。『アレルギーフリーのカレーです』『プラントベースミートのハンバーガーです』と言って提供されたときに、もちろん伝え方の問題も大きいと思うのですが、『本当においしいのだろうか?』『何かが物足りないのではないだろうか?』というように反応してしまう方も、まだまだ多い。正直なところ、私自身も、いまだにその点で違和感を感じてしまうときがあります。『それで本当によいのだろうか?』と。そもそも、『みんなが本当に「おいしい」と感じて食事ができる世界』をつくりたいのだから、味を犠牲にしたりおいしさで妥協したりしてはダメだろうと思ったのですね。ならば、この課題に応えて、コクや旨み、味わいとおいしさがちゃんと感じられる商品をつくっていきたいと考えて、ブランド名や商品名にもネーミングで採用し、原材料の配合にもこだわって、製品を開発してきました。」

 

――「旨味」という日本語の言葉は、翻訳がとても難しい日本独特の表現だと言われることもありますね。近年では海外でも、「Umami」と、そのままアルファベット表記され、通用するようになっていますが。そういう日本由来の概念を採用したいという思いもあったのでしょうか?

 

山崎 「そうですね。ありましたね。日本ならではの良さを活かしたいというブランド背景もありました。フランスやアメリカ、アジアでも、『Umami』という言葉のままで、そのニュアンスが通じるようになってきているようですね。私たちも、最近、アメリカで現地のシェフの方々とお仕事をすることが多いのですが、今のところ、この言葉のままではまるで意図が通じなかったという経験はないですね。味の素さんが始めたブランディングが成功したその効果で、この日本語のままで、世界的にそれなりに普及して、認知されるようになったのでしょうね。

ただ、『Umami』という表現は日本由来なわけですが、旨みの感覚や考え方そのものは、おそらくより普遍的に、国や地域に関わらず、人間が持っていたもの、多くの人びとが感じてきた大切な要素だろうと思います。だからこそ、古今東西、人は、ダシやスープストックを取ったり、味のベースをつくりだそうとしたりしてきたのでしょう。」

 

「食の多様性」を切り開く

……大学時代の体験から

メディア・コンサルティング事業へ

 

――なるほど。食べものの持つ機能性とともに、おいしさや味にも妥協せずに「ひとつの食卓を」というこだわりが強く伝わってきますが、そもそも、プラントベースフードをつくりたいとお考えになったのは、いつ頃からだったのですか? 何かきっかけがあったのでしょうか?

 

山崎 「そうですね。プラントベースフードだけではないのですが、学生時代から、これまでのキャリアを通じてずっと、『食の多様性』の問題に関心を持ってきました。私にとって、大切なテーマですが、このテーマに関心を抱くようになったいちばん最初のきっかけは、大学時代にボランティアで、海外から日本にいらっしゃる方々のための観光ガイドをやっていたときの経験にありました。ちょうど今から10年前、僕が20歳のときのことですね。彼らが日本での滞在を楽しめるよう、コミュニケーションを取りながらお手伝いする仕事でした。せっかくはるばる日本まで来てくださったのだから、やはり、良い体験をして帰っていただきたくなりますよね。彼らと一緒にいろいろな場所に行く仕事だったのですが、当然、食事もともにする。レストランにお連れするわけですが、そのときに、べジタリアンやヴィーガンだからといった理由などから、『あ、私は、僕は、このお料理は食べられない』ということが、非常に頻繁に起きたのですね。いちばん最初にガイドしたドイツ人の青年の方は、自分は菜食主義者だから、倫理的に、肉や魚は食べられないとおっしゃって。『ああ、世界には、こういう考え方もあるのだ』と、ショックを受けましたね。そのほかにも、たとえば健康上の理由や宗教的な信念から、特定の食べものを食べない方々もいました。いかにそれまで自分が、ふだん、食の多様性の問題に触れずに生きてきたかということに、気づかされました。

一緒に食事をしたかったのに、できなかった。そうしたシンプルな出来事の連続が、最初のきっかけでしたね。『同じひとつの食卓を囲めたら、もっと楽しく美しい経験になるのに』と、感じました。そして、自分も一時期ヴィーガンに挑戦してみたりもしてーー今はもう挫折しましたけれどーーだんだんとそういう『食の多様性』の問題が他人事ではなく感じられてきて、もっと自由で多彩な食生活のありようが、ひとつの選択肢として、世の中にもっと広まっていくべきなのではないかと、強い共感を感じるようになっていったのです。

そうして、これまでの自分のキャリアを振り返ってみると、とくにこの5、6年のあいだ、なにか特定のひとつだけの食のスタイルを強制することなく、一緒に食事ができて、かつ、社会にとっても良い選択肢となりうるものを、ずっと模索しながら提案してきたと思います。いわば、それが僕にとってのミッションになっていったのです。」

 

――なるほど。学生時代からすでに関心を持たれて活動してこられた。そして、2017年には、「食の多様性」をテーマにメディア・コンサルティング事業を展開する企業「フードダイバーシティ」に参画なさったご経歴をお持ちですが、これは大学ご卒業直後のことですか?

 

山崎 「当初は、大学生の頃に、インターンとして働き始め、その後、就職して社員になったかたちでしたね。

この『フードダイバーシティ』という会社は、主力事業のひとつとして、ウェブ・マガジンの『FoodDiversity.today』などを運営しているメディア・コンサルティング関連の会社で、今も、ベジタリアンやヴィーガンのための食の情報に始まり、ハラールやグルテンフリー、アレルギーフリーなどの多様な食の選択肢について、幅広く扱っています。この会社で、まずは、食の多様性にまつわる情報を発信する仕事に携わらせていただいたのが、僕の最初のキャリアです。

世界的に見て、日本では、こうした食の多様性への対応策が遅れていると、当初から思っていました。けれど、他方では、そうした課題意識を持って、しっかり取り組んでいるレストランやカフェテリア、食料品店は、それなりの数、存在しているのに、その情報を伝えるサービスは非常に少なく、なかなか良い情報が伝わりにくかったのですね。ですので、まず最初は、メディアの仕事からスタートを切りました。」

 

――そのあとは、どういったお仕事を手がけてこられたのでしょうか? 2021年には、台湾で「10大ベジタリアン・インフルエンサー」に選ばれていらっしゃいますね。こうしたご経験、そして起業を決意されるまでの道のりについて、詳しく教えていただけますか?

 

山崎 「2017年に先ほどお話しした『フードダイバーシティ』での仕事を始めて、今から5年前の2018、2019年頃に、『フードダイバーシティ』の仕事の延長線上で、台湾に住まうベジタリアンやヴィーガンの方々のために、彼らの求めるニーズに適う日本の食やレストランの情報を、フェイスブック・グループで、中国語で発信して交流するプロジェクトを始めました。

『フードダイバーシティ』は、社名のとおり、食の多様性全般を扱う企業でしたが、そのなかでも、とりわけ日本が出遅れていて課題が大きいと僕が当時から感じていたのが、ベジタリアンの領域だったのですね。そして、僕自身、学生時代に中国語圏の地域や国々に留学したり旅したりしていた経験もあって、もともと関心も持っていました。台湾は、実際、日本が大好きな国、世界でも有数の親日国ですが、実は、宗教的な理由もあって、人口の13〜14パーセントの人びとがベジタリアンという、『ベジタリアン大国』でもあるのです。そのふたつが頭に浮かんで、中国語で、日本のベジタリアン文化やレストランの情報を発信したら、そこには大きなニーズがあるのではないかと思いつき、まあ、実験的なかたちではありましたが、即座にこのプロジェクトをスタートしました。かなりマニアックな領域での活動でしたが(笑)。」

 

――このフェイスブック・グループ「日本素食餐廳攻略(Japanese Vegetarian Restaurant)」ですね。3.5万人もフォロワーさんがいらっしゃいますね。

 

山崎 「『UMAMI UNITED』を立ち上げてから、最近ではもう、ほとんど僕はノータッチですけれどね。

それで、このプロジェクトを始めてみたら、そこから、香港や台湾をはじめとする、中華圏のベジタリアン・コミュニティや企業様とのネットワークが、加速的に広がっていって、その結果、このプロジェクトだけ、『フードダイバーシティ』の社内で独立させて活動させようということになって、いわばスピンアウトするかたちで別会社が立ち上がり、そちらに移籍しました。そこでは、植物由来の食品、ベジタリアン向けに特化した食の情報発信、つまり、メディアの仕事と、その情報に関連した、企業向けのコンサルティング事業を手がけていました。そして、次のアクションとして、香港と台湾で、東京編と関西編、日本のベジタリアン・カフェやレストランを紹介したガイドブック本2冊を企画・編集し刊行したのも、こういう経緯があっての活動の一環だったのですね。これは、なかなかにマニアックな仕事で、たいへんでしたね。まずクラウドファンディングなどで、その当時のSNSのフォロワーの方々などからご支援いただき資金を集めるところから始めて、大勢のライターさんに、本の中で紹介する店舗を回って記事を書いていただき刊行しました。そうするうちに、自然発生的に、香港と台湾の食品メーカーさんやレストランさんとのつながりがどんどん増えていきました。ベジタリアンのためのマーケットが、日本よりはるかに先進的だったのですよね。そこから、現地のプラントベースフードの企業やブランドを日本に誘致したり、逆に、日本企業の海外進出を支援するコンサルティング活動も広がっていきました。海外の最先端の動向を日本に取り入れていく仕事が主でしたね。こうした活動から、インフルエンサーにノミネートしていただけたわけです。

『UMAMI UNITED PTE.LTD』と『UMAMI UNITED JAPAN』を立ち上げる前の2017年から2021年まで、キャリアの最初の5年間は、そういった内容の活動に携わっていました。そうするうちに、コロナウィルスの感染拡大とロックダウンの時代がやってきて、国境を跨いでの活動が難しくなっていき、それに、なにより、もともと、日本ならではの食材を使って、日本でも『ワン・テーブル』の成熟したムーヴメントをつくりだしていきたい、ひいては、世界中に広く発信していきたいという思いも強く持っていたので、いわば、初心に立ち返って、日本発でプロジェクトを立ち上げるための活動へと移行していきました。

まず、僕が叶えたいと思っていることをかたちにできるような研究をしている科学者の方々との出会いを探すところから始めました。とはいえ、そんなに簡単に、そうした出会いがあるわけではなく、しばらく時間はかかりましたが、あるとき、とあるプラントベースフードの商品開発のプロジェクトが立ち上がって、企業数社が共同で商品開発を行おうということになったのですね。僕も、そのプロジェクトに、コンサルタント兼メディア・リレーション担当として参加しました。残念ながら、このプロジェクトは途中で頓挫してしまったのですが、その過程で、のちに私たちの会社『UMAMI UNITED』の共同創業者で現在のCTOになる大場と出会いました。」

 

シンガポール、そして東京で創業へ

 

――思い立ったらすぐ決断し行動なさる力がすごいですね。そして行動が、次の出会いへと、どんどんつながっていく。

 

山崎 「ご縁に恵まれて、回っていく感じですね。ちょっとしたきっかけを大事にして、いろいろなことが始まり、広がっていきました。」

 

――20歳の学生時代のご経験に始まり、それだけの活動をなさって、まだ今、30歳の若さでいらっしゃいますよね?

 

山崎 「ちょうど30になりました。」

 

――すごいことです。そうして、2021年の12月にシンガポールでの起業を経て、2022年3月には、ここ、東京で、『UMAMI UNITED JAPAN』を創業なさった。今からおよそ2年前ですね。なぜ最初にシンガポールで起業なさったのですか?

 

山崎 「私たちの場合、当初から、ヴィジョンのひとつとして、グローバル・カンパニーになりたいという思いが強くあったのですね。『グローバルに展開しよう』と考え、フードテックの世界的なハブになっているのはどこだろうと考えたとき、シンガポールがそのひとつなのは間違いなかった。政府も非常に力を入れていますしね。お金も人も情報も集中しています。それで、もともとシンガポールには関心を持っていたので、まずはそこで創業しました。

ちょうど創業の数ヶ月前に、ドイツに本拠を置き、植物由来食品や養殖された代替食の振興を支援することを通じて、動物由来の食品の消費量を削減しようという活動を、長年、グローバルに行ってきたNGO団体である『プロベジ・インターナショナル(ProVeg International)』が主催する『アクセラレーター・プログラム』という、起業をサポートするプロジェクトに参加したことも、プラス要因として働きました。

この組織は、とくにヨーロッパでは広く知られていて、彼らに認証されたプラントベースフード製品には、彼らのロゴマークが付いていたりするのですね。彼らのウェブサイトを見て、そういうプログラムがあると知って応募したら、選んでいただけて、支援を受けることができたのも幸運でした。」

 

――それは、どういったプログラムだったのか、詳しく教えていただけますか? たとえば、助成金なども支給されたのですか?

 

山崎 「ファンディングも、一部ありましたね。けれども、それ以上に、プラントベースフードの世界で起業するための、一種の授業のような内容でした。ゼロからつくっていくためのメンターリングや指導、別の組織とのマッチング・サービスもありましたね。数ヶ月間、オンラインの塾で、集中セミナーを受講しているような感じでした。週に3日、ちょうど日本の時間で、夜の9時や10時に始まって、毎回、2時間くらい続くというカリキュラムでした。

日々、講義を聴いて、それについて、大場と日中話し合って、そこで湧いた質問をまた夜の授業中にディスカッションで投げかけるという連続で、なかなかにハードなプログラムでしたが、勉強になりましたね。そのなかで、グローバルにフードテックに特化して事業展開していくとなると、やはり、資金調達の面でも、フードテックが進んでいて、世の中に浸透しているエリアで起業するほうが、海外の方々からのサポートも得やすく有利だろうという考えが強まったという面もありました。」

 

――そのヨーロッパを代表するような組織で、そうしたプログラムをやっているというのも、ご自分で調べて知ったのですか? 日本に居ながら、目線は最初から非常に世界に向いていらして、そこでベストな選択肢を、都度都度、選び取ってこられたのですね。

 

山崎 「そうですね。最初から『やるならばグローバルにやりたい』という思いが強かったですからね。今、振り返ってみれば、よくやったなと感じますが(笑)。そうして、プロベジのそのプログラムに、日本人では初めて選ばれることになりました。『日本からなぜ来たの?』と、ずいぶんびっくりされたことを、よく覚えています。まあ、今は、もちろん、日本の農林水産省にも、非常にお世話になっているのですけれどね。当時はまだ、日本では、スタートアップを支援していこうというシステムが十分に整っていなかったし、そもそも、当初から、海外でも事業のパートナーを探したり、製品を販売したりしていくべきだろうという考えがあったので、自分でいろいろと調べてみて、プロベジのフードテックに特化したプログラムを見つけて、ウェブサイトから応募しました。」

 

――世界的に見ても、そういうフードテックに特化したサポート・プログラムはまだ少ないのですか?

 

山崎 「いや、けっこうあるようですね。アメリカやヨーロッパが多い印象ですね。シンガポールも見ますね。」

 

――なるほど。そうした経緯で、まず最初にシンガポール法人を立ち上げられたのですね。そして、続いて日本法人も創業なさった。実際、国内と海外、日本とシンガポールと、ふたつの法人を展開なさっていて、両者の事業における違いや、それぞれに独特の課題や困難、可能性を感じられることがあるかと思うのですが、この点について詳しくお聞かせいただけますか?

 

山崎 「実は、正直なところ、最初はシンガポールで創業しましたが、その後、現地での事業展開はあまり行ってこなかったのですね。日本国内、そして、海外では、アメリカ市場が、今のところメインになっています。ですので、日本国内とアメリカとの違いについて感じるところをお話しさせていただくかたちでもよいですか?」

 

――もちろんです。お願いします。

 

山崎 「ありがとうございます。アメリカも広いので、エリアによってかなり違うと思うのですが、今、私たちが主に協働を提案している西海岸エリア、つまり、ロサンジェルスやサンフランシスコでの経験が主になりますが、日本との違いをいちばん感じるのは、そもそもの『食の多様性』、フード・ダイバーシティや、『環境の持続可能性』、サステナビリティについての土壌が、アメリカでは、日本よりもはるかに整っているというか、そうした考え方がすでに相当に広く浸透しているなあという点ですね。そのため、『新しいものを受け入れてみよう』という意識が高い方々の層も厚いと感じますね。比較して言うと、日本はまだ、保守的な部分が強くて、新しいプラントベースフードを受け入れてもらうまでのハードルが高いと感じます。日米だけとっても、大きく開きがある。

と同時に、アメリカ特有の難しさもあって、多様性があまりにも進みすぎていて、非常に多くの人種や宗教が共生している社会ですから、ひとくちに『これがアメリカ向けだ』というような提案の仕方は難しいのですね。各セグメントごとにフォーカスしてアプローチしていく必要が生じます。他方で、日本の場合、単一民族とは言い切れませんが、ある程度の連続性が、購買層や市場に存在するので、おそらく多少時間はまだかかるでしょうが、一度広まったら、どっと勢いが加速しそうな気もします。」

 

――日米で相当の違いがあるのですね。しかし、素朴な疑問なのですが、学生時代から中国語も勉強なさってたいへん流暢でいらっしゃり、さらにその後のキャリアでも、インフルエンサーにランキングされるほど太く強いパイプを、香港、台湾をはじめとする中国語圏のアジアに持っていらっしゃるのに、現在、ビジネスを展開なさっているのは、主に国内とアメリカだと言うことに驚きました。

 

山崎 「まさに、そう思われますよね。実際、私も、普通の展開として、そういう流れを思い描いていたこともあって、シンガポール法人をつくり、現地の展示会に足を運んだり企業に提案をしたり、いろいろと活動していたのですよ。それにもちろん、シンガポールや台湾は、アジアの中でも、とくにプラントベースフードが進んでいる地域です。けれども、マーケット規模や物価の差を考慮すると、そこまでの強いアドバンテージが、アジア市場にはないと気づいたのです。それぞれの国も小さく人口も少ない。市場規模も、東京と同程度しかなく、限りがあるわけです。市場規模が大きく、かつ、植物性の代替食や環境負荷などの社会課題に対する意識も成熟している場所として、それではまずアメリカに進出しようと判断しました。代替卵に対する人気がいちばん速く広まりそうに感じられたので。

加えて、アメリカについても、いろいろな出会いから導かれた部分もありましたね。当時のツイッターで出会ったある方が、投資してくださることになって、『ああ、じゃあ、アメリカがベストなんじゃないかな』と思って動き出したのが、2022年の年末でしたね。アメリカに拠点を置く日本の食品会社の責任者をなさっている方で、会社の仕事とはまた別に、日本の会社を応援したいからと、支援してくださることになったのです。」

 

――お聞きしていると、キャリアをとおして、つねにいろいろなご縁に恵まれて、道が開けていっていますね。

 

山崎 「そうなんです。人様からの応援を受けて、人生が回っていると自分でも感じます。そればっかりです(笑)。その方の場合、資金面でもご支援いただきましたが、それ以上に、アメリカでの鍵となるパートナーさんや関係者とのネットワークにつないでくださったことが大きかったですね。」

 

――日本で今販売していらっしゃる商品を、アメリカ市場でも展開していくかたちでしょうか? いずれはヨーロッパをはじめ、さらにグローバルに展開なさると?

 

山崎 「イメージとしてはそうですね。」

 

――やはりアメリカは、そもそもが大国だし、かつ、フードテックやアグリテックの世界でも最先端を牽引している国のひとつなのですね。

 

山崎 「ですね。仕事をしていて、とても驚かされますね。やはり、夢がある。私たちの商品のご提案をしていても、非常に求められていると実感できますね。今、アメリカのいろいろな大学構内にあるカフェテリアなどにご提案していっているのですが、学生さんも先生方も、多様なバックグラウンドを持つ方々で溢れていて、植物由来の代替食品への意識・関心もとても高い、大きなニーズを感じます。」

 

「UMAMI EGG POWDER」へのリアクション

 

――現在、御社のホームページでは、個人のお客様がそれぞれの家庭用商品を購入することも可能ですし、業務用も販売されています。また、日本語と英語のバイリンガルのサイトで、円建てと米ドル建てと、いずれでも購入可能です。どのようなお客様が主流なのでしょうか?

 

山崎 「個人のお客様ももちろんいらっしゃいますが、だんぜん、業務用のお取り引き、B to Bが主ですね。取引量も桁が違いますし。食品メーカーさんや、スーパーマーケット、コンビニエンスストア関連業者さんなどとのお取り引きが多いです。ウェブサイトからご購入いただくのは、日本のお客様がほとんどです。アメリカでのビジネスのさいは、ウェブサイトを介さず、直接の商談で、食のディストリビューターの方々とお取り引きして、まとめてご購入いただき在庫をストックいただくかたちです。

会社の戦略としても、B to Bで、『見えない卵』を提案していきたいという部分が大きい。私たちのミッションを達成するうえでは、やはりビジネスの拡大も非常に重要です。植物性代替食品が普及することで、社会のインフラ・システム自体が変わっていくーーそういうヴィジョンを描いています。もちろん、私たちのつくる商品を求めてくださる個人のお客様もいらっしゃいます。とくに卵アレルギーを持つお子さんのいるご家庭だとか。そうした消費者の方々の声とニーズにも応えつつ、より社会的に大きなスケールで、提案していきたいと考えています。」

昨年10月に発売されたケンコーマヨネーズ株式会社との共同開発商品「まるでたまご®︎のサラダ」。植物由来成分100パーセントのプラントベースフード。

 

――これまでに御社の研究・開発なさった代替卵を使ってお料理をしたり、食べたりしたお客様からのリアクションで、とくに印象深かったものがあれば、お聞かせいただけますか?

 

山崎 「そうですね。日本の個人のお客様で、お子さんが卵アレルギーなのですが、おいしいお菓子をつくってあげたいと、長年苦労なさってきたお母さんからのフィードバックが、印象深かったですね。そのお子さんは、卵に加えて、小麦もヴァニラもアレルギー反応を起こしてしまう。卵や小麦は、お菓子の中でもコアとなる食材で、たいていのお菓子に入っています。これらがダメだと、お菓子を食べさせてあげること自体がとても難しくなってしまう。たとえば、誕生日に美味しいケーキを食べさせてあげたいと思っても難しい。ロールケーキひとつつくるにも、卵が使えないと、きれいに巻くこともできない。ところが、弊社の『UMAMI EGG POWDER』を使ってみたら、『初めてちゃんとしたロールケーキをつくることができました。食べさせてあげられました』とおっしゃってくださって。ご自分のホームページでもその様子を紹介してくださり、ご家族みんなで大喜びしてくださっていて、私たちもそれを拝見して、とても嬉しかったですね。やはり、『誰もが一緒に食べられるおいしいワン・テーブルの実現』こそ、私たちが目指しているところなので。このご家族は、今も積極的に、私たちの会社のインスタグラムなどにコメントをくださって、いろいろな嬉しい報告を寄せてくださっています。

それから、京セラさんが運営していらっしゃる食物アレルギー対応サービスの「matoil(マトイル)」。オンラインショップやレストラン・イベントなどを通じて、ミールキットなどを販売・提供なさっているのですが、ここのシェフの方々が、『UMAMI EGG POWDER』を使って、いろいろなレシピを開発してくださっていて、われわれが思いつかなかったような多彩な使い方をなさっているのを知ったときも、とても嬉しかったですね。このシェフの方々は、弊社の『UMAMI EGG POWDER』に対して、さらにアイディアやご要望も寄せてくださっていて、われわれとしても、もっと応えていきたいなと思っています。」

 

――それはどちらも、とても嬉しいエピソードですね。今日は、私のためにも、試食用に、『UMAMI EGG POWDER』と、それを使ってつくったマフィンまでご用意くださって、ありがとうございます。まずはパウダーそのものを試食させていただくと……おいしい! 卵だ。卵そのものですね、この味は。卵の旨みをぎゅーっと濃縮したような。とてもおいしいですね。

 

山崎 「ありがとうございます(笑)。ただ、味については、喜ばれる方と、以前、卵でアレルギー反応を起こしたときの辛い経験を思い出すから、むしろ意識したくない方と、二手に分かれるようです。味ももちろん再現しているのですが、やはり、いちばんこだわりたいところは、先ほども申し上げたような卵が持つ機能性ですね。お客様の最大のニーズもそこにあります。卵自体が食べたいというよりは、卵が使われているケーキやプリンなどのお菓子が食べたいというニーズが非常に大きい。スイーツを食べたいのに食べられない方々がとても大勢いらっしゃるのです。」

 

――たしかに、スイーツが食べられなかったら、人生の楽しみが損なわれますよね。

 

山崎 「そうですね。日本でもアメリカでも、よくシェフの方々に言われるのですが、パンケーキや焼き菓子をつくったときも、『UMAMI EGG POWDER』を使うと、とてもしっとり、もちもちした食感になり、これまで課題だったパサつきの問題が解決したと。アメリカのシェフの方も、『Mochi Mochi!』と日本語の表現そのまま使って、喜んでくださいました(笑)。」

 

――通じるのですね、モチモチで(笑)。

 

 

未来に向かって

「食のインフラストラクチャー」を

アップデートしていきたい

 

――ところで、非常に初歩的な質問をお聞きしますが、世界的に見ても、おいしい代替卵というのは、ほかに類を見ないものなのですか?

 

山崎 「今のところ、非常に限られていますね。ほとんど存在しないと言ってもよいくらいです。」

 

――そうなのですか。じゃあ、広大なマーケットが世界的に存在しているわけですね。

 

山崎 「そうですね。そのなかでも、もっとも高い期待値が見込めるのが、アメリカだと思ったわけです。

先日も、3泊5日でアメリカに行って、ノースカロライナの大学内にあるカフェテリアにケータリング・サービスを提供している会社のシェフの方々に会って、お話ししてきたのですが、そこで、『UMAMI EGG POWDER』を使ってつくったお料理やお菓子を試食していただきました。フレンチトーストやチョコマフィン、エッグバイツという卵焼きを載せたお料理などを披露させていただきました。やはり、シェフの方々は、食の最前線にいて、良し悪しの判断も優れていらっしゃるので、実際に食べて気に入ってもらえたら、アメリカの人びとに広めてくださるのではないかという期待もありました。そんなふうに、目下、いちばん力を注いでいるのが、アメリカの大学構内のカフェテリアの数々ですね。」

アメリカの大学構内にあるカフェテリアでの試食会の記録写真から。

試食会で、シェフたちと。

 

――今後は、さらに「旨味」、そして植物由来成分にこだわった新商品を開発していかれることと思います。まだまだとてもお若いですが、お差し支えのない範囲で、今後の構想や、やってみたいこと、成し遂げたい夢について、教えていただけますか?

 

山崎 「わかりました。

ひとつ、私たちが今取り組んでいる商品開発の延長線上でのチャレンジとなりますが、植物性成分100パーセントの代替卵における最大の課題とは、いわゆる『ワン・トゥー・ワン・ソリューション』と呼ばれるような解決策をご提供することなのですね。

どういうことかと言いますと、たとえば、『この焼き菓子には、卵をひとつ使っています。では、卵を使わないで、何かに置き換えましょう』となったときに、仮に、『卵1個ならば、イコール、このパウダー5グラムです』というような具合に、端的に言い切れて置換することができれば、おそらく、市場や人びとのあいだで、加速的に普及が容易になって、一気に広まっていくと思うのです。驚くほど簡単に。ところが、実は、これが非常に難しい。私たちも含めて、まだ、どの組織や企業も到達できていないのです。『卵1個を置き換えるには、このパウダーと、このオイルと、この素材や液体を、これこれこういうレシピの配合で混ぜ合わせて、ベースをつくってください』というような具合に、カスタマイズと調整のひと手間が、現状ではどうしても必要なのです。これを『1対1』で置換できるものをつくることができれば、世の中は一気にガラッと変わると思います。つまり、卵とまったく同じ条件で固まるし、まったく同じ条件で料理できるものです。今、私たちが挑戦していることの先には、そういう『1対1』でスイッチできるものを、という目標があります。

現状は、ちょっともどかしい感じですよね。たとえば、携帯電話は、スマートフォンが登場して初めて、似たような『ワン・トゥー・ワン・ソリューション』の状態に辿り着いたといえると思うのですね。ですが、携帯電話が登場したときも、最初は巨大なサイズで、電話の装置に加えて、必要な付随品をバッグに詰めて背負って、やっと通話が可能になっていたわけですよね。いわば代替卵も、そういう初期段階に、いまだあると考えています。それがガラッと状況が変わって普及していくのは、携帯電話のケースと同様に、『ワン・トゥー・ワン・ソリューション』を叶えることが可能な技術が生み出されるときだと思うのです。

やはり私たちはそんなふうに、本当の意味で『食の世界』を変えていきたい。『食の世界のインフラ』あるいは『食の世界の半導体』をつくるような思いでやっていきたいですね。グローバル・カンパニーの筆頭として、無数のパソコンに搭載されて世界中に普及していった、かつてのインテルのように。そんな壮大なヴィジョンを掲げています。

それが叶えられれば、何十、何百、何千万という人たちの食生活が変わっていく世界が見えてきます。そうなったら、いずれはもう、『勝手にひとり歩きする食材』に変わっていくでしょう。いかに、スイッチング(置換)のコストや手間を、お客さまに背負わせないかが重要です。ノウハウをもっと簡単にしていく。そのためには、まず今の技術が必要で、今後も革新が求められるところだと考えています。」

 

――では、これからも、まだまだ、進化させていくイメージなのですね?

 

山崎 「そうです。」

 

――たしかに、インテルの例えは、とてもわかりやすいですね。卵という食材は、私たちの食生活において、半導体がパソコン製造において持っているのに匹敵するほどの重要性というか、「必要で欠かせない食べものだ」というイメージがあります。

 

山崎 「おっしゃるとおりです。

不思議ですよね。動物性のタンパク源は、もう何百、何千年、人類にとって、非常に重要なエネルギー源だったと思うのですけれど、たとえば、お肉の例で言うと、一定の地域や集団は、さまざまな理由から、『食べない』という選択肢を選んできたことがわかります。『豚肉は食べない』とか『牛肉は食べない』と言うような例は、けっこうありますよね。ところが、私が知っているかぎりでは、アレルギーの方の場合を別として、『卵は決して食べない』というエリアは、おそらくほぼ存在しないと思うのです。これほどまでに、世界中のあらゆる地域で、何十億という人びとによって、長いあいだ、食べつづけてこられた食材は、非常に稀です。そう思うと、これはすごいことで。卵そのものが、そうした壮大なスケールを持つ食べものだと思うのです。」

 

――お聞きしていると、なんだか、ある意味、旧約聖書の『創世記』に登場するエピソードのような壮大なスケールを感じさせられますね。人類が太古の昔から食べつづけてきたもっともポピュラーな食べもののひとつを、新しいものにしようとなさっているという意味で。

 

山崎 「あはは(笑)。まあ、かなりの強い思いを持ってやっているのは確かです。」

 

――いずれは、代替卵関連商品以外のものも研究・開発していかれるご予定でしょうか?

 

山崎 「そうですね、ゆくゆくはやりたいですね。ずっと卵オンリーではなく、別の素材も手がけていきたいです。あくまで『おいしいワン・テーブルの世界をつくりだす』ことが、私たちのやっていきたいことなので。おもしろいと思える可能性に挑戦していきたいですね。」

 

――まさに、最後にそのあたりをお聞きしたかったのですが、まだたいへんお若く、30歳になったばかりで、これだけのことを成し遂げられてこられてきたわけですが、今後のヴィジョンについて、さらに長いタイムスパンでお聞かせいただけますか? 昨今では、環境問題や世界的な人口増加などをはじめとする社会課題に対する施策も広く求められる世の中になっていますが、2030年、2040年、2050年の未来はどんな社会になり、何が求められているでしょうか? そのなかで、会社として、あるいは山崎さん個人のレベルでもけっこうなのですが、成し遂げてゆきたいことがあれば、お差し支えのない範囲で教えてください。

 

山崎 「そうですね。10年単位で明確に区切って考えているわけではありませんが、たしかに、社会的にも、多くの企業や政府が、2030年や2050年をひとつのボーダーラインや中間目標地点として、気候変動や人口問題などへの対策を打っていこうとしていますよね。

私たちの手がける食の世界でも、2020年から2050年までの30年間に、大きなパラダイム・シフトが起きるはずだと考えています。それはもう、非常に明白なことでしょう。今まさに、世界中のフード・システムが、がらりと変わろうとしている。そんな時代に、事業を立ち上げて関わることができるのは、とてもおもしろいですね。1990年代のインターネットが爆発的に広まっていった黎明期にも似ている。ドットコム・バブル以前のいちばん良い時代に似たところを、現在進行形で走っているような感覚がありますね。

そうした時代の中で、やはり、私たちは、『食のインフラストラクチャー』のアップデートに携わり、『食の多様性』をつくりだしていきたい。持続可能で多様な世界の創出や社会課題の軽減に貢献していけるーーそういう力のあるブランドと商品をつくっていきたいですね。そして、『日本発』だという出自も大切にしたいと考えています。日本から世界の産業にチャレンジすることによって、日本の『失われた30年』と呼ばれてきたような暗さと閉塞感を乗り越えて、次の時代、明るい未来をつくっていきたいですね。そんな夢を、自分にとってのひとつのミッションとして、勝手に背負っています(笑)。グローバルな世界や社会課題にも応えつつ、日本の中で新しい産業をつくり、次の世代がワクワクするようなものをつくっていきたいですね。」

 

――どちらも、とても重要なことですね。後者について言えば、本当に、日本社会や経済全般に元気がなくなって久しく、明るい未来を思い描くことが、ますます困難になってきていますから。

 

山崎 「そうですよね。でもね、僕は『まだここからだ』と思っています。ここから、『日本の勝ちパターン』が発揮できるチャンスは、まだまだあるだろうと感じていて。たとえば、かつての自動車産業のように。欧米が最初につくりだした産業だったけれども、その後、課題が明確になっていくに連れて、ちょっと時代の先を行く、先進的な要素をうまく取り入れて、それを『改善・改良』して強い製品を生み出すことが、日本は、昔からとても得意ですよね。歴史を見ていてそう感じます。

新しい食、フードテックの世界でも、プラントベースフードの土台と基本ルールをつくってきたのは、イノベーションが進んでいたアメリカやヨーロッパが主だったと思いますが、そこにキャッチアップして、『カイゼン』して世の中に広めて、世界を牽引するリーディング・カンパニーをつくっていくことは、日本人にもできるのではないかと思っているのです。私たちの会社のCTOの大場や研究者たちと日々話していると、自然とそんなふうに思えてくる自分がいますね。自分だけでスタートさせたときには感じられなかった可能性も、本当に実現可能なのではないかと思えるようになってきました。」

 

――良いですね。今日は、明るい未来に向かうエネルギーの貴重なお裾分けをいただきました。

 ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024年1月22日収録。