『RPA MEDIA』オリジナル執筆記事

 

未来予測の名著を読む その3

 

鈴木貴博=著

『日本経済 復活の書 2040年、世界一になる未来を予言する』

 

PHP研究所:東京、2022年6月刊

 

 

TEXT BY ERI KAWADE, SENIOR EDITOR, RPA MEDIA

 

今回は、前回取り上げた新書『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』の続編に当たる、同じ著者による本『日本経済 復活の書 2040年、世界一になる未来を予言する』を紹介しよう。未来予測とイノベーション戦略の専門家、鈴木貴博が、2022年初夏に上梓した一冊だ。ぜひ、前回の本と併せてご一読頂きたい。これら2冊の本をとおして、著者は、明晰かつ平易な言葉とロジックで、今、私たちの住まう日本が、とくに社会的・経済的な観点から、どんな問題に直面しているのか、このままなんの手も打たずに時が進むと、いったいどんな未来が待ち受けているのか、では、予測されるような実現可能性の高い不安と憂鬱の膨らむ未来像とは異なる、オルタナティヴな「別の未来」を歩むためには、今後、日本社会は、どのような方策を打っていく必要があるのかについて、詳細かつ現実的な分析と論説によって解き明かしていく。

前作で指摘された、2020年代の日本を襲うであろう、さまざまな大転換期到来のショックとその影響の予測。本書では、そうしたこれからの日本に訪れそうな「暗い未来」に対して抗うべく、「誰も触れようとしなかった「不都合な論点」」の数々に着目し、いわば「禁じ手」とも言うべき大胆な「魔改造」の提案がこれでもかというほどになされている。

前著を書き終えた著者は、「未来予測の専門家であると同時に戦略コンサルタント」として、「そもそも日本がダメになる予測をして、それで終わらせるつもりはありません」と思考を続け、本書の執筆計画に着手したという。そこで前提とした着眼点は、以下のようなものだったという。

 

「これまで30年間、日本経済がひたすら地盤沈下を続けてきたのは本当にやるべきことをせずに、決めやすいことしか決めてこなかったからだ」

 

著者はこう続ける。

 

「これまでの政府の日本経済復活戦略は不発でした。地方創生とかイノベーション支援とか規制緩和論とかがあって、基金とか補助金とか政府系ファンドとかで巨額の税金が投入されていますが、結果がともなっていない。

(中略)

そういったバラマキ政策に依存してきた日本経済の現時点が今のこの状態です。これまで提案されて実行されてきたことはどうも筋が悪いのです。

 その上で「では、何が日本復活のために本当にすべきことなのか?」をリストアップしてみました。それでわかったことは、これまで政治家や官僚があえて触れようとしてこなかった「不都合な論点」がまだたくさんあるということです。

 そこに踏み込めば未来が変わるかもしれないけれど、世論が二分するから踏み込めない、そんな問題がたくさんあります。

 ・人口減少に対する移民政策

 ・脱炭素に対する原発の再稼働

 ・SNSの進化にともなう新しい社会秩序

 ・財政再建と社会保障拡大のトレードオフ

 ・組織トップの馴れ合い人事

 こういった「きわどい」論点に踏み込まず何も決めない態度を取っていることが、実は日本経済復活の道筋をせき止めている。もしそこを強引に突破したら日本の未来はどうなるのか。それを一度描いてみる価値があるのではないか。」

 

そして、著者は、「その前提で本書が突破口として提案するのが、一連の「日本の魔改造」」「危険な禁じ手に見えるけれども前提条件を大きく変えることができる政策」を、本書を通じて提案していく。

 

冒頭の「はじめに」では、わかりやすい導入として、こんな例が挙げられている。

 

「たとえば、従来の未来予測シナリオが悲惨なのは、少子高齢化を前提としているからです。人口が減少する国の経済成長率を上げることは非常に難しい。

「だったら移民で人口を増やしたら状況が変わりませんか?」

 これが魔改造の着眼点です。そもそも欧米など日本以外の先進国で、日本ほど少子高齢化が進んでいない最大の理由は、外国人を受け入れているかどうかです。

「そんな外国人だらけの日本にしたくはないよ」

 という意見から、この移民議論は日本ではまったくウケません。でもちゃんと議論をしてみるとどうなるのか。日本の人口が移民で増加に転じて、2040年に1億4000万人になったとしたら何が起きるのか。そして、ここにもう一つ別の魔改造を加えることで、入国する移民が日本人のサポーターばかりになるとしたら? どんな未来になるのかちょっと見てみたい」とは思いませんか。」

 

このようにして、「不都合な論点に正面から切り込むという視点で、常識的ではない解決案を議論の俎上に載せて、2040年の日本の未来が良い方向に変わるかどうか」が、次々と論じられていくのだ。本書の取り上げる問題は、たいへん幅広く網羅的だ。手っ取り早く、そのスコープの広さと重要性をお伝えするために、目次の一部を、以下に抜粋しよう。

 

「第1章 日本が人口1億4000万人を目指す未来――少子高齢化は決して必然ではない

 

第2章 リニア中央新幹線を博多まで延伸するーー大阪が経済ハブとなり、四国がフロンティアとなる

 

第3章 メタバース大国か、それともモビリティ大国かーー「終わらないバブル」が実現する日

 

第4章 人工知能の育児環境を整えるーー「国産AI」のレベルが日本の未来を左右する

 

第5章 自動運転車の事故をどう裁く?――日本の自動車メーカーが生き残るための秘策

 

第6章 400兆円永久債発行計画――増え続ける借金の、根本的な解決策とは?

 

第7章 脱化石燃料国家を完成するには?――誰も議論しようとしない「不都合な論点」

 

第8章 IT監視社会を幸せな未来にーービッグデータで明確になる「良い日本人」の条件

 

第9章 ベーシックインカム全面導入――「法人税の魔改造」で日本型企業モデルが復活する

 

第10章 頭のイカれたリーダーを選ぶーー日本企業がアップルやテスラに勝つために」

 

どのようなテーマが分析されているのか、大まかに把握いただけたかと思う。どれも、なかなかに、今の日本社会では「不都合な論点」として、見て見ぬふり、看過されているトピックであり、ワクワクするようなスリリングな論点だとお思いにならないだろうか?

 

最後に。

本書のラスト「おわりに」では、実は、本書が提案してきた「禁じ手」の大変革案は、大筋では、小規模ながらも、すでに国の中枢にいる政治家や官僚が進めている施策の方向性と合致していることが指摘される。しかし、著者は、「改革に必要なのは「スピードと規模」」だと言う。

 

「ここにすべてのからくりがあります。一見同じなのにこれだけの違いが出る理由は、スピードと規模です。外国人労働者が200万人増えるのと2000万人増えるのとでは経済効果がまったく違う。リニア中央新幹線が2027年に部分開通しかできないのと、2030年代前半に一気に博多まで開通するのとでは、日本経済に与えるインパクトがまったく違う。この違いが認識できるか、似て非なるものだとわかって決断できるかが重要なのです。」

 

「日本の政治では無邪気な時間稼ぎ戦術が有効だという構造的欠陥があります。

(中略)

ビジネスの世界では、すべての経営者は時間が資源であることを認識しています。しかし立法も行政も違う。ここが日本の停滞の真の原因であり、同時に本当に壊すべき突破口です。」

(中略)

「今起きていることはその逆です。中国が世界一の金持ちになろうとしていて、しかも日本は安い。アメリカ人から見ても安い。日本の物価は30年前の途上国の物価と同じレベルです。

 なぜ物価が安いのか。経済の悪化で長期にわたるデフレが起きたからです。ところが日本は食料もエネルギーもその大半を海外からの輸入に頼っています。経済が長期的に悪化して、円安が進んだ今、いつまでも海外から安いものが入ってくる状況が続くわけがない。いずれ日本が途上国に転落した段階で、海外から輸入するものは日本人にとって高いものばかりになるのです。

 にもかかわらず、日本人の大半が漠然とこれから先の日本経済は悪くなるであろうことを達観しています。ジリ貧に慣れてしまっているのです。」

 

「今、日本人の大半が野心を失っています。

(中略)

 本書をお読みいただいたことで多くの読者の方の心に火がついて、そして日本の未来を変えられる可能性に気づいていただけたら、さらには日本に魔改造ブームが起きたとしたら、筆者としてこれ以上に嬉しいことはありません。」

 

こんな熱いメッセージで語られる本を、今こそ、手遅れにならないうちに、まだ、「日本の未来が変えられる」うちに、読んでみたいと思われないだろうか?

興味を持たれた方は、ぜひ手に取って読んでみていただきたい。

 

 

 

★鈴木貴博の公式ウェブサイトは以下

https://www.hyakunen.co.jp

 

★本書の出版社ウェブサイトは以下

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-85233-1

 

 

 

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