大和ハウス工業株式会社では2016年からRPAを導入し、今も変化・進化しながら、最適な運用が行われています。
初期の導入から4年が経過し、大和ハウス工業株式会社の松山さん寺島さんに、RPAの現状をお伺いしました!

松山さんは、近年、RPAを導入している企業も増え、会社の中でどのような位置付けにするかが明確になったと言います。
例えば、RPAを使えば簡単にDXが実現できるという幻想でなく、ビジネスの目的を達成する道具の一つとして位置付けられています。
つまり、目的をRPAでどのように実現していくか考えるようになってきているのです。
またシステムの作り方も変わり、アジャイル開発が主流で、モバイル・アプリが多くなってきてもいるとのこと。
そんな大和ハウス工業のこだわりは、どんな部分にあるのでしょうか!

(左:寺島さん、右:松山さん)

自動化の目的は”働き方”改革

まず特徴的なのは、「業務の棚卸をしない」ところです。
RPAを導入するならまず業務の棚卸からと筆者は考えていましたが、それはむしろ逆効果とも考えられます。

通常のRPA導入の場合は業務の棚卸をして効果の大きさを計り、より効果が大きいとみられる部分からRPA導入を行います。

しかし、松山さんは、社員にRPAの事例を見せて「大変な仕事している人いませんか」と問いかけるのだそうです。

具体例では、定型的にシステムから抽出する作業です。大和ハウス工業には監査を行うチームもあり、下調べの資料を作るのも監査業務の一環でした。
資料作成のためには色々な情報を定型的にシステムから拾い出す必要がありますが、その担当の女性社員は、育児と仕事を両立させていました。そのため、子どもを保育園に預けて仕事するものの、お迎えの時間を考慮しながら仕事を組み立てなければなりません。

資料作成には時間がかかるため、「今から手をつけ始めるとお迎えに行く時間に切り上げられなくなってしまう」「でも明日になると締め切りに間に合わないし……」と悩みながら仕事を進めていました。

そこでRPAを導入しました!!!
帰り際にシステムを稼働しておけば、翌朝には資料ができている仕組みを採用!!
毎日、子どものお迎えがある中、仕事をこなしていた社員が、予定・仕事を組み立てられるようになりました。

「残業増えてるんですけど」
「新しいことを始めたいけど、今の人員や体制では追いつかない」

そのような話を聞いて、その仕事を自動化する。
繁忙期で一時的に残業が増えたり、絶対に間違えられない仕事を担う社員に寄り添うRPA開発が行われています!

先ほどの女性社員の方の例に戻ると、松山さんは、「資料ができていない中で、子供がいるから迎えに行かなければならなくて、と説明するのは精神的にも負荷が掛かります。そうした負担を軽減することで、自分の仕事を効果的に組み立てられるようになったとするならば、ロボット導入の価値があります。そのようなロボットを作ることが重要だと考えています。」と言いました。

つまり、単純に生産性をあげるだけでなく、ワークライフバランスを整えることが、RPAを利用した「働き方改革」の目的なのです!

「”今”大変なところをおっしゃってください。その負荷を低減しましょう」

もう一つ、大和ハウス工業の特徴的な取り組みは情報システム部がRPAを主導すること。

情報システム部内にあるRPAチームが他部署からのリクエストに応じてロボットを作り、部署へ「配属」させているのです!
RPA開発を行う場合、セキュリティ・安定性を考えてもシステム的な知識が必要です。
各部署管理にしてしまうと、ロボットが機能しなくなるリスクがあるため、大和ハウス工業ではRPAチームが基本的にロボットの作成を行い「ロボットの台帳」で一貫して管理しています。

後で誰が見ても修正や改善をどのように行うべきか、わかるようにしているのはシステム的な発想と言えます。
短期間で作成できるロボットだからこそ、丁寧に行っているのですね!

台帳があることで「よくわからないロボット」や「もう使っていないロボット」はなく、
一体一体がどのくらいの効果があるかわかるようになっているのです。
これこそ、大和ハウス工業の3つ目の特徴なのです!

過去の事例から導入を検討する社員も多いそうで、RPAの情報が集約されているRPAチームはそういった点も強みです。
バラバラに作っていても、みんな悩むところは同じです。
一人ひとりで考えるのは効率が悪く、RPAチームで一貫して開発を行うことで事例を共有して作成スピードも上がっているのです。
RPAチームに相談することで「予想していたよりも業務効率が上がる」こともあるのだとか!

また社内のイントラネットの中に、RPAそのものや、開発・運用手順、リスクについても説明するRPA ナレッジというサイトを作っています。
グループ会社を含めた社員が大和ハウス工業でどんなRPAがどこの依頼で作られ、どういった仕事をしているかを全部閲覧できるので、RPAの導入についてもイメージしやすいのです!

また、ロボットが同じ状態であり続けるのは正解ではなく、新しいシステムを生み出し続けてロボットを改善していく「ロボットそのもののライフサイクル」を作ることを大和ハウス工業では意識しているようです。

つまり、ロボットを作ることが業務改善のゴールではないのです。
「業務改善」は現場の社員が参加して、きちんと自分の仕事を直さなければなりませんが、現場の社員は、そんなことをしている暇がない。

業務改善の筈が、現場の社員にロボットの作成業務を上乗せし、一時的とはいえさらに仕事を増やしてしまうことがあります。
そうなると、現場社員は「業務改善をするつもりがないのか」と考えてしまいますし、「だったら俺の今の仕事をなんとかしてくれよ」という声が上がります。
業務改善したいのは同じなのに、すれ違いが起こってしまうわけです。
だから松山さんら大和ハウス工業のRPAチームは、「現場の人は作らなくていいですよ」「我々が作りますよ」という話をし、業務の棚卸も行わないのです。

作り手も精神的に健全に

大掛かりな業務の棚卸しを行った場合、自動化を行っても半年後にも同じ効果があるかはわからない点から、大和ハウス工業ではそのようなやり方は行わないようです。

ロボットはアジャイル方式で作っていき、ユーザーの横でPCを置いて一緒に作成・修正を行うイメージで作っていくのだそう。
ロボット作成にはだいたい1週間、ヒアリングやテストを含めて全体で2~3週間かかるそう。
大掛かりなロボットになる場合はシステム開発を視野に入れ、RPAは小さく速く作成を行っています。自分が今までやっていた仕事をロボに肩代わりしてもらう形なので、現場はわかりやすく助かるのです!

これが、3ヶ月後に自動化したところで「なんの話でしたっけ」となってしまいます。
しかし「今困っていることが、目の前ですぐ自動化される」RPAだからこそ、現場側も満足度が高く、作り手側も役に立ったと感じることができるのだそうです。

ロボットも「教育して、配属して、フォローする」

ロボットを導入したからといって仕事がなくなるわけではなく、ロボットが業務を代行しているだけです。
元は人の仕事なので、ロボットが止まったら再び人が仕事してしまうこともあるため、ロボットがエラーで止まっていないかを定期的に確認しているそうです。
ロボットの動き自体も管理し、稼働率が悪くなったらロボットが働いている部門まで行き「何か変わりましたか」とコミュニケーションを取ることで、ロボットがフルに活躍できるような環境を整えているのです!

寺島さん曰く、ロボットは配属した時が一番効果は小さいかもしれないそうなのです。
メンテンナンスに時間をかけて、修正や改善を重ねていくことで徐々に効果が高まっていくと思っていらっしゃるそうです。
計画通りに作っても、実際に稼働させると求めている効果が出ないことがあります。しかし、それを普通のことと言い切り、メンテナンスを重ねて稼働率を改善をしていくことが、大和ハウス工業のRPAチームの特徴なのではないかと感じました。

「新しい仕事に充てなくてもいいんじゃないですか」

よく聞かれるのが「ロボットを作ると業務の時間浮きますよね。その時間を別の仕事に充てないといけないですよね?」といったこと。

それに対して松山さんは「(新しい仕事に)充てなくてもいいんじゃないですか」と仰ります。

「もちろん、業務が効率化されて浮いた時間を、新たな価値を生み出すための仕事に充てるのは当然ですが、それで残業時間が増えては本末転倒です。せっかく残業が減ったのなら、早く帰って家族とご飯を食べる時間をもっと増やす。もっと睡眠時間を増やす。そういう風にしてあげればいいんじゃないですか」

「みんな『会社の業務を改善したい』という思いはありますから、改善しようと思ったら協力してくれますよ。

でもその前に、睡眠時間や、家族と過ごす時間を増やすことが仕事の効率性の向上につながると考えています。
だから、浮いた時間をすぐに別の業務で埋めるのはやめてください、残業が減ったのなら早く帰らせてやってくださいという話をよくしているんです。」

松山さんや寺島さんを始め、大和ハウス工業のRPAチームは社員に寄り添った業務改革を進めています。資料作成を行っている女性社員やロボットの教育からフォローなど、数値に縛られないRPAの効果の大きさを改めて感じる取材となりました。

最後に
大和ハウス工業株式会社
松山さん、寺島さん
今回は取材許可をいただき、ありがとうございました。
制作にあたり、多大なるご協力をいただきましたことを改めて感謝申し上げます。
誠にありがとうございました。