「環境にやさしい病害虫防除を目指して・・・」
化学農薬を用いない技術の開発を進めている株式会社アグリクリニック研究所
イチゴのハダニに対して高濃度炭酸ガスを用いることで完全防除することに成功しました。

今回は村井式イチゴ苗高濃度炭酸ガスハダニ防除システム「アグリクリーナー®」について代表取締役社長 村井氏にお話をお伺いしました。

 

 

アグリクリーナー®とは

密閉した装置に苗を並べて高濃度の炭酸ガスを注入し、24時間で苗に付いたダニの成虫と卵を死滅させます。
高濃度炭酸ガスなので、薬剤耐性がつくこともありません。

 

 

 

目次

 

 

アグリクリーナー®を手掛けようと思った経緯はなんですか?

長年、農業分野で害虫の防除と生態研究に携わってきた私は、特に害虫防除において農薬の使用が課題であると感じています。農薬は増産に役立つ一方で、環境への影響と害虫の薬剤抵抗性発達が懸念されています。これを受け、約40年前から私は炭酸ガスを用いた害虫防除の研究を進めてきました。炭酸ガスは古い技術でありながら、害虫駆除に効果があり、以前は輸入穀物の害虫対策に臭化メチルが使用されていましたが、環境への悪影響から使用禁止となり、炭酸ガスが代替手段として注目されました。

しかし、日本では炭酸ガスの実用化が進んでいません。栃木県に移り、イチゴ栽培に従事してからは、特にハダニの問題に直面しました。イチゴは一年中育てられ、ハダニが常に存在する環境でした。私は炭酸ガスを利用し、高濃度でイチゴに対して炭酸ガス処理を試験的に実施しました。この試みから、イチゴは炭酸ガス処理による障害を受けずに効果的に害虫を防ぐことが判明し、イチゴ栽培における炭酸ガス利用の新しいシステムの開発を始めました。

 

 

導入・運用コストについて教えていただけますでしょうか。

イチゴ栽培における農薬のコストは非常に高く、1ヘクタール当たり年間で約120万円に達することがあります。特に、ハダニ対策用の農薬は高価で、農薬の耐性が増すために新しい種類の開発が必要となり、コストが上昇しています。これに対応するため、多くのイチゴ農家は年間約100万円の費用がかかる天敵剤の使用を普及させています。

さらに、私たちのアグリクリーナー®は農家の規模に合わせて異なるサイズの装置を提供しています。小規模な農家向けには70万から80万円の小型装置、中規模の農家向けには一度に1反(10a)を処理できる110万円の装置があります。大規模な農家の場合は、より多くのボンベを使用する160万円のオプション付き装置を提供しています。これらの装置はイチゴ栽培における高額な農薬費用の削減に貢献しています。

 

 

栃木県以外での普及状況について教えていただけますでしょうか。

 

九州地方、特に福岡、熊本、長崎、佐賀はイチゴの主要な産地で、その生産量は栃木県の倍にも及びます。九州のイチゴは営業力が強く、東京を含む東日本全体で広く販売されていますが、栃木県産のイチゴは主に関東地方以北での流通が中心です。九州ではイチゴの栽培技術が栃木県と異なり、炭酸ガスの使用に関する知識があまり普及していない様子が見られます。私が福岡の農業関連の展示会に参加した際も、炭酸ガス利用の知識がほとんど見られませんでした。

しかし、最近福岡のIT関連会社が観光農園を開設し、アグリクリーナー®を導入するなど、新たな動きが見られます。昨年が開始年度であり、今年は3ヘクタールの面積で展開する予定です。これまで福岡市周辺には観光農園が少なかったため、注目を集めています。九州では手間がかかる「あまおう」などの栽培が一般的で、農家の規模は比較的小さいものの、最近では大規模な観光農園が増えつつあり、関東地方に比べてイチゴ狩りの施設はまだ少ないですが、今後の拡大が期待されています。

 

 

炭酸ガスはイチゴ以外にも使用できるのでしょうか。

炭酸ガスはイチゴだけでなく、様々な害虫に効果的で、生の植物体から乾燥食品、お菓子、タバコの葉など幅広い範囲で使用できます。乾燥した食品は保存中に害虫が発生しやすいため、炭酸ガスを活用してこれらの害虫を駆除する方法が効果的です。当社はこの技術を鹿児島から輸入されるかつお節を扱うかつお節問屋に提供し、保存中に発生する害虫による損害を防ぐための炭酸ガス処理を今年から実施しています。炭酸ガスは、適切な容器や倉庫の設計を通じて、様々な保存食品の害虫駆除に有効です。

 

 

アグリクリーナー®において今後強化したい部分はありますでしょうか。

現在、私たちの装置はアルミ蒸着フィルムを使用した袋で製造されており、その結果、装置はコンパクトで持ち運びが容易という特徴を持っています。これは特に小規模な農家にとって使い勝手が良い設計です。今後、私たちは大規模農場や食品倉庫会社、花やその他の食品を取り扱う施設向けに、より耐久性のあるハードタイプの装置の開発を計画しています。これにより、装置の形状と構造が現在のモデルから大きく変わる見込みです。

またイチゴ栽培では、当システムの使用が年に一度の9月に限定されるため、1年後には操作方法を忘れるユーザーが多いことが課題です。そのため、より簡潔で分かりやすいマニュアルやパンフレットの作成を検討中です。ITやSNSの使用はまだ若い層に限られていますが、今後はより幅広い年齢層に対応できる方法を模索していきます。

 

 

最後に

高濃度炭酸ガスはイチゴ以外にも使用することができ、様々な可能性を秘めています。

これからもアップデートがかけられていくとのことで、今後も注目です。

 

 

株式会社アグリクリニック研究所
代表取締役社長:村井 保
事業内容:・病害虫防除技術の研究開発、販売、指導
     ・アグリクリーナー販売
     ・ミツバチ増殖、販売
     ・イチゴ苗販売
会社HP:https://agriclinic-labo.com/

 

 

 

 

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