“『かくれフードロス』となっている端材や規格外農作物を、

大量に『ぐるりこ®』に変えていかなければ、


社会問題の解決に対するインパクトも弱くなってしまいます。


ごく一部の少量のアップサイクルでは意味がないと思うので、

やはり、いかに『ぐるりこ®』を普及させられるかが、


重要だと思っています。


形だけ、ほんの少しだけ、ざんさを減らす程度ではなく、


全量をアップサイクルする。


『かくれフードロス』の廃棄をゼロにする。


そういうヴィジョンにこだわって、

力を尽くしていきたいのです。”

 

 

日本国内のフードロスは年間約520万トンと言われているが、実は、ここには、産地で出る規格外作物や食品工場から出る「食品ざんさ」年間約2000万トンは含まれていない。この「かくれフードロス」に注目し、同社が開発した「過熱蒸煎機」を活かして「食糧自給率向上」「人びとの健康」「地球環境負荷軽減」を目指す、埼玉県富士見市に本拠地を置くフードテック・ベンチャー企業、ASTRA FOOD PLAN株式会社。さまざまな野菜の端材や飲料ざんさなどの粉末化に成功しているが、2023年には、𠮷野家の玉ねぎ端材から生まれた玉ねぎパウダー「タマネギぐるりこ®」を使用したオニオンブレッドをポンパドウルが開発・販売し、話題を呼んだ。創業までの歩みから現在、そして今後の展望を聞く。

 

取材・構成=川出絵里、シニア・エディター、『RPA MEDIA』
INTERVIEW & EDIT BY ERI KAWADE, SENIOR EDITOR, RPA MEDIA

 


 

 

ASTRA FOOD PLAN 代表取締役社長 加納千裕

All the images: Courtesy of ASTRA FOOD PLAN CO., LTD.

 

 

𠮷野家とポンパドウルと協働して

オニオンブレッドを開発し

「かくれフードロス」問題に挑む

 

 

——今年の2月に日本経済新聞社主催で開催された「第5回スタ★アトピッチJapan」でグランプリを受賞なさいました。おめでとうございます。これは、全国各地の有望なスタートアップと後継ベンチャー事業を対象に評価・表彰を行うものですね。受賞のご感想をお聞かせください。

 

加納 「ありがとうございます。そうですね、創業して、『過熱蒸煎機(かねつじょうせんき)』の研究・開発を行い、販売にとくに注力するようになって以来、PRがとても大切だと思っているのですけれど、私どもはスタートアップ企業で、なかなか広告や宣伝にかける資金が足りないものですから、いちばん有効なPR手段が、ビジネス・コンテストに出場することなのですね。2022年頃、まったく無名の状態から出場し始めまして、ありがたいことに数々の賞をいただきました。だんだんと私どもの事業も認知度が上がってきたので、そろそろコンテストは卒業しようと思っていたところで、今回、グランプリを頂戴できてとても嬉しく思っています。『有終の美』を飾れたかなと。」

 

ASTRA FOOD PLANの研究・開発した「過熱蒸煎機」でつくりだされる、さまざまな野菜や飲料ざんさを用いた乾燥パウダー「ぐるりこ®」のサンプル・イメージ。

 

――昨年の春には、御社の「過熱蒸煎技術」を用いて、𠮷野家の玉ねぎ端材から生まれた「タマネギぐるりこ®」を使用したオニオンブレッドをポンパドウルが開発・販売し、注目を集めました。この協働プロジェクトは、どのようなきっかけと経緯を経て実現されたのかを、まず、お聞かせいただけますか?

 

ポンパドウルから発売されたオニオンブレッド4種。上から順に、「ダブルオニオンブレッド」「ミニオニオンブレッド」「玉ねぎパン」「ダブルオニオンピザ」。

 

加納 「はい。発端はですね、𠮷野家様から弊社へのお問い合わせから始まりました。𠮷野家さんの工場では、牛丼をつくるのに、玉ねぎを各店舗でスライスしているわけではなくて、工場でまとめてスライス加工して、パックしたものがお店に配送されて、お店で加工済みの玉ねぎと出汁とお肉を煮込んで牛丼をつくるのですね。その下処理を一手に行なっている工場が埼玉県内にあります。そこでは、大量の玉ねぎの端材が出ていました。まず、芯の部分を機械でくりぬき、さらに黄緑色の表面の硬い部分を手作業で切り取ります。その後、機械でスライスするのですけれども、スライスには、長さ6センチ、幅2センチという、牛丼に入れるための大きさの規格があるのです。玉ねぎは丸い形をしていますから、当然、端のほうは、その規格に当てはまらないサイズになってしまいます。これらの破材が年間最大で約250トン捨てられている現状を見て、𠮷野家さんご自身も、もったいないと思っていらしたそうです。さらには、その端材の廃棄コストに、年間数百万円かけていらっしゃいました。それでもこの金額は、工場で出る食品ざんさの廃棄コストの一般論として、まだ少ないほうです。

𠮷野家の工場で生まれる玉ねぎの端材。

この画像資料をごらんいただいておわかりになるように、端材と言っても、綺麗なのですね。汚いから捨てているわけではなくて、 大きさや食感が規格に合わないという理由でやむをえず捨てているので非常にもったいない状況でした。

𠮷野家さんは、おそらく、未来に向けての持続可能な取り組みに力を入れようとなさっていたのですね。工場に太陽パネルの設置などもなさっていますが、そうしたサステナブルな取り組みのひとつとして、玉ねぎの端材の大量処分の問題も、どうにか解決したいと考えていらっしゃったのです。担当部署の方が解決方法を模索していらした過程で、『乾燥してはどうか?』というアイディアが出てきて、そこで私どもにお問い合わせくださったのです。」

 

――なるほど。それがきっかけになったのですね。お問い合わせを受けて、どのように感じられましたか?

 

加納 「たいへん大きな企業様ですし、とても嬉しかったですね。それで、早速、端材を送っていただいて、完成して間もなかった過熱蒸煎機で実験してみました。届いたときは驚きましたね。可食部ばかりでとても綺麗な端材だったので、これを捨ててしまっているのか、もったいない、と感じました。

それで、過熱蒸煎機に入れてみたら、まったく問題なく粉末にできました。最初に試作したときは、あまり焦がさないように処理したので、今日、こちらにサンプルでご用意したもののように茶色いパウダーではなく、白っぽい仕上がりでしたね。それはそれで、甘くておいしいものができたのですけれども、何回か実験を繰り返しているうちに、この焦がし具合で茶色っぽく香ばしさを出していこうと決めて、この粉末のようになったのです。

よかったら、フタを開けて、香りを嗅いでみてください。」

 

――ありがとうございます。それでは失礼して……うわ! 玉ねぎがそのまま凝縮されたような、思った以上にとても強い香りがします! おいしそうな良い香りですね。

 

加納 「ありがとうございます(笑)。温度を高めるなど、過熱蒸煎機の設定を調整していたら、このような具合に、とても香りが強く出てきて、これがよいのではないかということになりました。」

 

――そういうフレキシブルなところもよいですね。もしかしたら、今後、将来的には、同じ玉ねぎでも、甘くて若々しい感じを求める企業様も出てくるかもしれませんよね。

 

加納 「そうですね。営業活動をしていますと、実際、もっと焙煎の香りが少ないほうがよいとおっしゃるお客様もいらっしゃいますし、さらにロースト感を強くしてほしいというお客様もいらっしゃいます。機械の運転の調整で、そうしたお好みにいかようにも対応できます。」

 

――好みに合わせて調整できるというのは、たいへんなメリットですね。𠮷野家さんの玉ねぎの端材を乾燥パウダーにしたものを、ポンパドウルさんでオニオンブレッドにしましょうというお話は、どのように進んだのですか?

 

加納 「それは私のアイディアでした。もともとポンパドウルさんとは前職で父の会社で働いていた頃、つまり、父の代からのお付き合いがあったのですね。父の代の頃は、過熱水蒸技術を使い、野菜や果物のピューレをつくる事業を展開していたのですが、そのピューレを、ポンパドウルさんに採用いただいていたのです。パンの生地やフィリングに、ピューレを練り込んで使っていただいていました。ピューレだと、流通形態も冷凍状態になります。それを各店舗で解凍して、ドロドロっとした流動体のものを、生地に練り込んで使っていただいていたのです。それで、当時の社長さんから、ピューレだと、水分が含まれていて使い勝手が悪い、粉にならないのかというふうに、もう10年以上前から言われていたのですね。そういうご要望をいただいていた経緯がありましたから、パン生地をはじめ、大量生産の食品に使うには、やはり食材は乾燥パウダーのほうが使いやすいのだろうなという発想は、父や私の心の中に長年あったのです。それが、『過熱蒸煎機』をつくりたいという思いにつながった、ひとつのきっかけでもありました。ですので、『過熱蒸煎機』の開発に成功して、おいしいパウダーができたときに、まずはポンパドウルの社長さんにお見せしなければと思い、お持ちしました。もう代替わりしていて、当時の社長さんは、今では会長になって、息子さんが新しい社長さんに就任なさっているのですが、パウダーをお持ちしたときに、会長もお顔を見せてくださって、『ずいぶんと時間がかかったねえ』と、笑いながらおっしゃってくださいました(笑)。」

 

ASTRA FOOD PLANが研究・開発した「過熱蒸煎機」。

埼玉の本社内にある最小モデルの「過熱蒸煎機」の前で。相談役のお父様と一緒に。

 

――ちゃんと覚えていてくださったのですね、先方も。

 

加納 「はい。それで、『タマネギぐるりこ®』を使って、試作品をつくってみてくださったのですね。そうしたら、ポンパドウルさんもびっくりなさるくらいに、とてもおいしいパンができたのです。そうした経緯で発売に至りました。

さきほど当社の『タマネギぐるりこ®』の香りを実際に嗅いでいただきましたが、分析してみたところ、市販の乾燥品の粉末と比べ、当社の『過熱蒸煎機』でつくったものは、玉ねぎ本来の香りが、最大値で言うとおよそ135倍くらいと、たいへん強い香りになっています。」

 

――すごい数値ですね!

 

加納 「市販の一般的なオニオンパウダーでは、パンの生地に練り込んでも、ほとんど玉ねぎの味も香りも出ないのです。パンは、小麦粉以外のものをたくさん入れると、ちゃんと膨らまなくなってしまいますから、入れられるパウダーの量に限界があるのですね。当社の『たまねぎぐるりこ®』をお使いいただけば、パンの膨らみに影響しない少量を入れるだけで、非常におおいしいオニオンブレッドをつくっていただくことが可能です。」

 

――なるほど。従来の市販品にない、大きなアドバンテージがあるわけですね。しかも、調味料や調整剤など、ケミカルな添加物などとも無縁ですよね?

 

加納 「はい。いっさい無縁ですね。100パーセント、ただ、野菜や果物などの素材そのままだけを粉末化した商品です。」

 

 

「米処 結米屋(ゆめや)」とも協業。

「タマネギぐるりこ®」がクッキーに

 

――画期的なことです。

ところで、昨年は、秋にも、「米処 結米屋」さんと、国産の12種類の穀物の粉を用いたオニオン風味のクッキーを共同開発なさり、販売が開始されましたね。こちらについてもどのような経緯で実現されたのかを教えていただけますか?

 

加納 「はい。こちらはですね、ポンパドウルさんとの取り組みがテレビで紹介されたときに、先方からお問い合わせをいただいたことが始まりでした。結米屋さんの社長さんは、渋谷さんとおっしゃる女性の方なのですが、その方のお母様がちょうどテレビでその紹介番組をごらんになって、お嬢さんに向かって、『あなた、若い女性社長がやっている素敵な会社があるから、問い合わせなさい』と、おっしゃったそうなのです。それでご連絡くださったのですが、『母からそんなことを言われたのは初めてのことで、私もびっくりしてしまいました』と、おっしゃっていらっしゃいましたね(笑)。それで、『何か一緒にやってみたい』と言ってくださって、スタートしました。

結米屋さんも、お父様から引き継いで、その女性が社長を務めている会社なのですが、やはりもう、昔のように、ただ米問屋をなさっているだけでは、ご商売が成り立たないとおっしゃっていらして、彼女自身、お米関係のマイスターなどの資格をいくつも取っていらっしゃるのですね。それで、ご自身で全国の産地から厳選したおいしいお米を販売するセレクトショップを、都内の百貨店などで展開していらっしゃるのです。店舗では、お米だけでなく、お米を使った食品の販売もなさっていて、この雑穀入りクッキーもそのひとつです。ココア味とか塩メープル味とか、いろいろな味のラインナップがあるなかで、オニオン味のクッキーをつくりましょうというお話になって、できあがったのがこのクッキーです。」

 

――なるほど。素敵なお母様ですね。

 これらの商品に対して、協働なさったパートナー企業の方々やお客様からは、どのようなリアクションがありましたか? とくに印象深かったエピソードがあれば、教えてください。

 

加納 「そうですね。パンもクッキーも、購入してくれた知人や、お取引先のみなさまからは、ありがたいことに、とてもおいしいとご好評いただいています。

ポンパドウルさんにオニオンブレッドの売れ行きをお尋ねしたら、『おもしろい商品ですよ。爆発的に売れるわけじゃないけれど、発売から1年経っても、つねに継続的に一定数以上売れつづける』とおっしゃられて。普通、多くの商品は、発売からしばらくすると人気が落ちて、シーズンごとに入れ替えられるそうなのですが、このオニオンブレッドはリピーターさんを引き寄せるようで、安定的に売れつづけていると。なので、店舗によりますが、今も販売が続いています。

クッキーのほうは、ポンパドウルさんのパンよりもオニオンパウダーの配合量の割合が高いのですね。なので、玉ねぎの香りも味も、かなり強く出ていて、パンチがある味ですねと、よく驚かれます。

𠮷野家さんとのプロジェクトでは、最初にお問い合わせくださった担当の方が、その後もずっと窓口となって、本当に一生懸命、力を尽くしてくださっていて、とてもありがたいですね。大きな企業さんですから、社内でクリアしていかなければならない障壁がたくさんある。機械を設置する工場チームの方々に始まり、関連する他部署からも理解を得て、協力してもらう必要があります。『過熱蒸煎機』を導入して、社会的にも実装しようと、私たちと一緒に頑張ってくださいました。

テレビ番組で𠮷野家さんとポンパドウルさんとの取り組みが紹介され、その後、その内容がYahoo!ニュースでも紹介されました。反響がとても大きくて、コメント欄に600件以上のコメントが寄せられたのですが、このプロジェクトについて、ネガティヴなことを書き込む方は、ほとんどいらっしゃいませんでした。日本でも、環境問題やSDGsへの関心は近年高まってきていると思いますが、これまで廃棄していた食材をパウダー化してアップサイクルすることに対して、社会的に理解が深まってきていると感じましたね。父の代のときには、まだ、『サスティナビリティ』というような言葉もほとんど認知されていなかったのが、今では時代が追いついてきて、Yahoo!ニュースを見ているような一般の消費者の方々にまで、広く浸透してきたのだなと思いました。ですので、ちょうど事業を始めるタイミングもよかったのかなと思います。」

 

――今後も、このような協働開発事業に、とりわけ力を注いでいかれるご予定でしょうか?

 

加納 「そうですね。私たちの会社の場合、ビジネスモデルがそもそも協業を前提としたかたちになっていて、たとえば、今回、𠮷野家さんには、『過熱蒸煎機』を販売したのではなくて、レンタルさせていただいているのですね。なので、機械は𠮷野家さんの工場の中にありまして、𠮷野家さんのスタッフの方々がパウダーを製造していらっしゃるのですけれども、できあがったものは私たちが買い取っています。ですから、𠮷野家さんには機械のレンタル料を払っていただくのですが、「タマネギぐるりこ®」生産用の玉ねぎの買取による収益も得られるのです。もちろん、人件費や光熱費を費やして機械を動かしているけれども、販売収益によって、ペイする設計になっています。𠮷野家さんとしては、玉ねぎの端材を売ることによって儲けを出したいというニーズがあったわけではなく、これまで捨ててしまっていた端材の廃棄をなくしたいというニーズを抱えていらしたので、その課題がクリアされるうえ、収益化もできた。私たちとしても、もしも自社で「タマネギぐるりこ®」を大量生産しようとしたら、まず、工場を建てなければならなくなるわけです。そのためには、建設費や人件費など、けっこうな投資を行わなければならなくなります。けれども、製造を𠮷野家さんが受け持ってくださるわけですから、私たちはファブレスでパウダーを量産することができるようになる。そして、パウダーの販売先は、ポンパドウルさんをはじめ、いろいろな食品メーカーさんへと増えてきています。𠮷野家さんの玉ねぎの端材は大量なので、ポンパドウルさんだけでは、まだまだ余っている状態なのですね。ですので、循環型のビジネスモデルを成り立たせるためには、私たち3社だけでは完結せず、多くの企業様とのコラボレーションが必要なのです。

このモデルだと、3社のいずれも、損をすることがないのですよ。たとえば𠮷野家さんにとっても、仮に何千万円というコストをかけて装置を購入して、玉ねぎパウダーをつくって他社に販売するとしたら、食材販売という新規事業を始めることになり、非常に労力がかかるうえ、ビジネスとして成立しないかもしれません。けれども、私たちが採用しているビジネスモデルに参画いただく形であれば、当初から、収益が出せることがわかったうえで、機械を導入していただくことになるので、非常に安全な策になるのですね。ポンパドウルさんにとっても、やはり、お客様が求めているようなおいしくてエシカルな商品をつくり、売り上げをアップさせることが可能になるわけです。誰もが得をして、自然な循環が生まれていく。このモデルの社会実装を、さらに今後も目指しています。」

 

「過熱蒸煎機」レンタルと「タマネギぐるりこ®」買取のビジネスモデル。

 

『ぐるりこ®』の普及・浸透を目指して

……深刻な「かくれフードロス」問題の解決へ

 

――なるほど。御社のウェブサイトにあるパウダーについての紹介文から抜粋・引用させていただくと、「『ぐるりこ®』は、『過熱蒸煎機』によって風味、栄養価の減少を抑えながら製造される高付加価値パウダーの総称です。素材別には”タマネギぐるりこ””キャベツぐるりこ”などとなります。サスティナブルで循環型のフードサイクルを目指していることと、『過熱蒸煎機』内で原料をぐるぐると回転させながら乾燥殺菌する製造工程の様子を表したキーワード『ぐるり』と、Collaborate、Cooperation、粉の『こ』を組み合わせた造語です」とのことですが、この「ぐるりこ®」のブランディングが成功したら、「ぐるりこ®」が使用された食品にブランドのマークが付けられるようになったりして、広まっていく可能性もありますよね。

 

加納 「そうなったらよいと、今、がんばっているところです(笑)。最終的に、商品や店頭で『ぐるりこ®』マークを使っていただく取り組みも行なっていて、ポンパドウルさんでも、すでに店舗内の商品用ポップ・カードなどに『ぐるりこ®』マークを加えていただいています。そうして、だんだんと、一般消費者の方々にも、『ぐるりこ®』を認知していただくことをを目指しています。

 

加納さんが普及に力を入れる「ぐるりこ®」のロゴマーク。

アットホームで和気あいあいとした社風。

 

私たちが取り組んでいる『かくれフードロス問題』は、なかなか一般の消費者の方々には解決できない問題ですが、『エシカルな「ぐるりこ®」食品だから買おう』というように、『ぐるりこ®』食品を選んでいただけるようになると、その消費行動によって循環モデルが促進されていくだろうと期待しています。工場で出る食物ざんさについて、消費者のレベルでは、通常、なんの対策の打ちようもないわけですが、それが粉になってパンやお菓子の中に入り、一般消費者の方々の手元にも届くようになれば、そうした商品を選択して購入することで、一般の方々も、『かくれフードロス問題』に貢献できるようになるわけです。

ですので、今、大手の食品メーカーさんなどに、「ぐるりこ®」のご提案をし、複数の企業で開発が進んでいます。

 

 

――まさにエシカルで理想的な循環モデルになりそうですよね。

私自身、御社のホームページに掲載されている代表のメッセージ文を読ませていただき、日本国内のフードロスは年間約600万トンと言われているということ、また、ここには、実は、産地で出る規格外作物や食品工場から出る「食品ざんさ」年間約2000万トンは含まれていないということを知り、衝撃を受けました。たいへんな数字ですね。こうした「かくれフードロス」の問題に注目なさったきっかけは、なんだったのでしょうか? それは、いつ頃のことですか?

 

加納 「ホームページに書いた時点では600万トンと言われていましたが、少し改善して、最近では、年間のフードロスは523万トンと言われています。そちらの『表に見えるフードロス』については、おそらく、AIの発展などにより、店舗の商品発注数の精度が上がって、小売店での売れ残りが少なくなってきた状況にあるということだと思います。メーカーサイドの『かくれフードロス』については、小売店の売れ残りが若干減少しても、まったく減っていないのが現状です。

『かくれフードロス』の問題に注目し始めたきっかけのひとつは、そもそも、私は、大学卒業後、ずっと食品業界で働いているのですけれど、商品開発の仕事をしているなかで、工場見学に行く機会が多かったのですね。そこで、ずいぶんなロスが出ている光景を、日常的に目にしていました。『ああ、もったいないなあ』と、感じていました。」

 

 

革新された「過熱水蒸気技術」

 

――食品関係の事業を経営なさっていらしたお父様と栄養士だったお母様の影響で、幼い頃から「食」に関心を持たれ、女子栄養大学の栄養学部をご卒業後、さまざまな食関連企業に勤められ、一貫して、「食」のスペシャリストとしてのキャリアを重ねていらっしゃったのですよね? そして、お父様の創業なさった会社で、「過熱水蒸気」によるピューレ製造技術を用いた商品開発や販売営業をご経験なさって、その後、2020年に、「過熱水蒸気技術」を用いた新事業として、御社を新たに設立なさり、代表取締役社長に就任なさったそうですね。「過熱水蒸気技術」に特化した新しい事業を立ち上げられたのは、なぜですか? そして、この技術について、どのようなイノベーションを可能にしたものなのか、詳しく教えていただけますか?

 

加納 「まず、父が開発してきた高温スチーム技術というのは、食品を高温で一気に加熱殺菌処理をして、色や風味、栄養を残すという技術なのですね。野菜や果物でも人間の髪の毛でもそうですが、ずっと熱を当てつづけたら、その分、痛んでしまいますよね。けれども、高温で一気に素早く熱処理すれば、栄養や風味、色を損なうことなく残せるのです。そういう過熱水蒸気技術を使って、父は食品のピューレを製造販売する事業を行っていました。この過熱水蒸気技術を応用して、乾燥粉末化ができたら、素晴らしい食品パウダーができるだろうなと考えて、過熱蒸煎機の開発を始めて、成功したのです。しかも、大量生産も可能になりました。いちばん最初につくった最小サイズのモデルでも、1時間、装置を稼働させると、50キロの食材が処理できます。最大サイズのモデルでは、1時間に500キロも処理が可能です。つまり、8時間稼働で最大およそ4トンも処理ができる。レストランや食料品店に設置するものではなく、対象になるのは食品工場です。そして、社会課題の解決にもこの新しい技術を役立たせたいという思いもあったので、フードロスの問題に着目するようになったのですね。

そこで、いろいろな食品メーカーさんを訪ねて、ヒアリングを始めました。数十社のお話を伺ううちに、実に多くの企業の工場で、たくさん、食品のざんさが出ている、つまり、『かくれフードロス』が発生していることがわかってきました。そうしてこの問題の深刻さに気づき、『かくれフードロス』とネーミングしたわけです。

『過熱水蒸気技術』とは、どういう点で革新的だったのかについて、もう少し詳しくお話ししますと、普通の水蒸気というのは、お湯を沸かすと湯気が出てきますよね。温度も100度程度です。ところが、蒸気をさらに加熱すると、もっと高い温度の蒸気にすることができて、それを『過熱水蒸気』と呼ぶのですね。100度を超えた水蒸気、スーパースチームです。普通の水蒸気は、白いもくもくとした湯気で、目に見えるのですが、より高温のスーパースチームは、目に見えないガスのような、乾いた透明な気体になります。過熱水蒸気を利用することで短時間のうちに熱を通すことができるので、食材の良さを損なわないで処理ができる技術なわけですが、従来は、お湯を沸かして、お湯から出てきた蒸気をもう一度再加熱して、やっと過熱水蒸気になるという作り方だったので、エネルギー効率が悪いものでした。そんななか、私たちの開発した『過熱蒸煎機』は、スーパースチームをボイラーなしでつくる技術なのです。ボイラーを使用しない、特殊な過熱水蒸気発生装置を『過熱蒸煎機』の中に内蔵しているので、熱のロスがなく、エネルギーコストが非常に安くなるという点が、画期的な特徴になっています。この技術を用いて、400度から500度くらいの温度で、ほんの一瞬の加熱で『ぐるりこ®』パウダーをつくっています。素材を装置に入れてから、乾燥粉末になって出てくるまで、わずか5秒から10秒ですから、熱にさらされている時間が非常に短く、ダメージもほとんど受けないわけです。」

 

――なるほど。本当に一瞬でできあがるのですね。この機械は、これまでお話に出てきた企業以外には、たとえば、どのようなお客様が導入していらっしゃるのですか?

 

加納 「導入事例はいくつかあるのですが、たとえば、しいたけの生産農家さんが導入してくださっていますね。一般的には熱風乾燥機を用いて干ししいたけをつくるのですが、トレーにしいたけを薄く並べて、24時間乾燥させるのですね。通常、燃料は灯油で、一日かけて乾燥させる仕組みなので、非常にエネルギーコストが高くなってしまうのです。『過熱蒸煎機』を使うと、乾燥時間がきわめて短くてすむので、エネルギーコストが非常に低くなります。しいたけ農家さんの場合、当然、生(なま)でまず出荷するのがメインの事業ですけれども、需要に対して供給が多すぎたり規格外のサイズのものができてしまったりすると、買い取ってもらえないものが出てしまう。そういうものは、干ししいたけにするわけですが、従来のやり方だと、なかなかコストが見合わなかったのですね。そういう事情から、干ししいたけに代わるしいたけパウダー生産にいち早く取り組みたいということで、導入いただいています。

ほかには、オリーブ農家さんが導入してくださったりしていますね。オリーブ農家さんとは、オリーブオイルをつくっているだけではなかなか収益が上がっていかないので、オリーブの葉を捨てずに、お茶にして販売することを計画なさっているときに出会いました。通常は、日本茶と同じように、蒸して揉んで焙煎してお茶にしないと、えぐみがきついのですが、『過熱蒸煎機』を使うと、葉を機械に入れるだけで、おいしいオリーブ茶ができるのです。栄養も損なわれず、抹茶に似た風味になる。そして、そのお茶を使って、地域のショコラティエさんがとてもおいしいチョコレート菓子をつくったりして、新しい地域循環が生まれています。

そのほか、最近の事例だと、飲料メーカーさんでざんさが大量に出ていることから、それらをアップサイクルするために、装置の導入を検討いただいたりしています。そのように、日本中のあらゆる農業生産地や食品工場で、『かくれフードロス』が発生しているので、多くの方々から、なんとか解消できないかということで、お問い合わせいただいています。とはいえ、実装に至るまでのハードルは、まだかなり高いですね。まず、装置を購入しようとなっても、もっとも安価なモデルでも、1台1500万円からになりますので、ポンと気軽に買えるような金額ではないですね。そして、つくったパウダーの販売先はどうやって開拓したらよいのか、あるいは、パウダーを使って、どんな新しい商品を企画・開発したらよいのか、思案しなければならない事柄がたくさんあるのです。ですので、今、私がもっとも力を入れているのは、誰がどんな製品に、どのように使ってくれるのか、現実的な循環サイクルのルートをつなげることです。『ぐるりこ®』の市場自体をつくりだすことに、頑張って取り組んでいます。装置は、食品ざんさ、『かくれフードロス』が発生しているところだったら、どこでも設置可能だと思っています。」

 

「しいたけぐるりこ®」のサンプル・イメージ。

 

――そうすると、実は、ほとんどの農業生産地や食品工場などで、潜在的に大きなニーズがあるということですね?

 

加納 「そのとおりです。みなさん、食品ざんさを粉にして有価物に変えたいというニーズがとても強いと感じています。

食品ざんさの問題で、いちばんのネックとなるのは、水分を多く含んでいるため、すぐに腐ってしまうということです。その点でも、殺菌し乾燥できる技術は、非常に有効です。しかし、従来の乾燥機では、時間もコストも大きすぎたのです。フリーズドライ製法の機器は、食品加工技術として優れた乾燥機ですが、量産機は一台1億円、2億円もの高額になります。エネルギーコストが安く、比較的安価なイニシャル・ランニングコストですむ過熱蒸煎機は、これまでの技術的な課題をクリアしたと言えると思います。

一方で『ぐるりこ®』の市場開拓は、まだまだこれからです。『機械を購入してざんさを「ぐるりこ®」として乾燥パウダーにするから、できあがったものを買い取ってほしい』というご要望をたくさんいただくのですが、まだ、『ぐるりこ®』の販売ルートが十二分に成長していないので、そこが非常に歯がゆいところです。大手企業を巻き込んだ出口開拓に、今後は力を入れていきたいと考えています。

いろいろな商品開発は、地域プロジェクトの中でも取り組んでおり、最近では、学校給食でも『ぐるりこ®』を使用したメニューが提供され、子どもたちにも食べてもらいました。教材も用意して、1日限定で食育プログラムを行いました。『社会課題を科学の力で解決しようとしている会社だよ』と伝え、過熱水蒸気をつくる実験も一緒に行って授業をしたあとに、『ゴボウぐるりこ®』や『ニンジンぐるりこ®』が入った給食を、実際に食べてもらったのですが、子どもたちみんなが残さずに『おいしい』と言って完食してくれて、嬉しかったですね。『さっき匂いを嗅いでもらって実験したパウダーが入っているよ』と言って、実際に体験してから食べてもらうと、やはり、特別な経験になるのでしょうね。フードロス削減の問題も、他人事ではなくて、自分にも関わりのあることだととらえてくれたようでした。

ニンジンのざんさと「ニンジンぐるりこ®」のサンプル・イメージ。

 

そんなふうに、粉状になれば、スープやお料理、サラダやドレッシングなどにも簡単に入れられるようになりますし、ニーズは無限大にあるはずです。『ぐるりこ®』を使いたいという方々が増えれば、自然と『かくれフードロス』は減っていくだろうと思っています。ざんさの発生しているところに『過熱蒸煎機』を設置していただき、私たちの会社が『ぐるりこ®』を買い取って販売するサイクルです。そういう状態になれば、みんなが『ウィン・ウィン』の状態になり、おのずとフードロス問題も解消されていく。それが私たちの目指している世界です。」

 

――なるほど。一般の消費者向けのB to Cビジネスはなさらないのですか? ヘルス・コンシャスな人などにはとても需要がありそうです。

 

加納 「今後、『ぐるりこ®』を、一般消費者の方に向けても販売する予定です。それも含めて、いろんな角度でチャレンジして、とにかく販路の拡大に力を注いでいます。形だけ、ほんの少しだけ、ざんさを減らす程度ではなく、全量をアップサイクルできるように、出口までつなげる。『かくれフードロス』の廃棄をゼロにする。そういうヴィジョンにこだわって、力を尽くしていきたいのです。』

 

 

サーキュラー・エコノミーの

社会実装に向かって

 

――そのこだわりが、御社のミッションになっているのですね。ホームページでも、「過熱水蒸気技術」を活かして、「食糧自給率向上」「人びとの健康」「地球環境負荷軽減」の3つの課題解決に取り組み、「サプライチェーン全体を巻き込み、循環型フードシステムをシステム構築することを目指す」というヴィジョンを掲げていらっしゃいますね。「1社だけではなしえない食のサーキュラー・エコノミーを、複数社であれば実現できると考え、ASTRA FOOD PLANがシステム構築のサポート」をなさると謳っていらっしゃいます。自社のビジネスを超えて、全体を巻き込んで、そういうビジネスサイクルをつくルコとまでを目標にしていらっしゃる。

 

加納 「私が会社を立ち上げたのが2020年だったのですけれど、ちょうどその頃から、『サーキュラー・エコノミー』という言葉が日本に紹介され始めたのですね。私はもともとSDGs関連の問題に関心を持っていたので、サーキュラー・エコノミーをいかに実践するかのヒントになるような本もたくさん読みました。ちょうど、『過熱蒸煎機』を使ったビジネス展開を、どのように進めていくべきかを考えていた頃で、『これを事業の中核に据えよう』と考えたのです。どの本にも、自社のみでの取り組みの事例しか紹介されていなかったのですが、循環型のビジネスモデルをつくりだすために、業界全体、社会全体を巻き込みたい、そういう方向でチャレンジしたいと思って、ホームページにも、先ほど引用してくださったようなヴィジョンを掲げました。」

 

「埼玉サーキュラーエコノミープロジェクト」のスキーム図。地域を広範囲に巻き込んでいく。

 

――なるほど。今後は、海外のお客様との協働もありうるとお考えですか?

 

加納 「お話はすでにいくつかいただいていますので、そうなればと思いますね。」

 

――最後に。まだたいへんお若いですが、今後、2030年、40年、50年の未来に向かって、御社として、また、加納様ご自身として、いつか実現してゆきたい夢や抱負があれば、教えてください。

 

加納 「2030年頃になると、おそらく、私が『かくれフードロス』と呼んでいるような、現在はまだ廃棄されている食材について、資源として認識され、みんなが競って手に入れようとして取り合っている、そんな状況になっているのではないかと思っています。ですので、いち早く今の段階から取り組んだ企業や人が、その素材の権利を握れるような状態になるのではないかと予測しています。そのため、すでに少なからぬ大企業さんは、捨てられている端材のアップサイクルの問題に注目して、取り組もうとなさっているところでしょう。

『かくれフードロス』とひと口に言っても、食品工場から発生しているものと、生産者のもとで発生しているものと、大きく言って、ふたつに分けられます。現状、玉ねぎについては、アップサイクルの仕組みがようやくできつつあるところですが、近い将来に、生産者サイドの『かくれフードロス』である規格外農作物などをアップサイクルし、生産者の収益アップにつなげられるようなシステムをつくりだしたいという思いが、自分の中に強くありますね。

多くの国内の農家さんは高齢化が激しく、小規模に経営していらっしゃいますから、装置を導入したくても、なかなか難しい。そうした状況を考えると、やはり、JAさんと連携して取り組んでいく必要があると思い、現在、協働して実証実験も行なっています。個々の生産者の方々が乾燥パウダーをつくるのではなくて、生産者さんのところで発生した端材や規格外品を、農協、もしくは、なにかしらの組織が買い取るような仕組みを考えています。また、同時に、近隣の地域で出た作物の端材を使ってパウダーにして商品化し、全国に流通させる仕組みづくりも始めています。ですので、2030年の段階で、私たちが会社として手がけていたいことについても、もうすでに着手してスタートさせている状態ですね。2030年までには、こうした事業を、現実的に社会に広く実装させていたいと思っています。」

 

――世界的にも、おそらく2030年までには、食糧危機の問題はもっと顕在化してくるでしょうから、そうした仕組みづくりの意義は計り知れないものがありますね。

今日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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2024年3月11日収録。