国内最大級の総合物流企業、日本通運!
近年、EC市場の拡大を追い風に需要が高まる物流業界でも、業務自動化の流れが進んでいます。
日本通運では2018年からRPAを導入し、これまで151万9000時間の業務時間削減に成功したそう。(日数に換算するとなんと約6万3291日!)
そこで、社内でのRPA運用状況や使用ツール、展開方法について、日本通運株式会社 IT推進部 井上さん(以下、敬称略)にお話を伺いました。
全2回でお届けする今回のインタビュー記事、前編です!
運輸業は意外と事務作業が多い…?
「3年後100万時間削減」という目標を達成するため行われた、日本通運ならではのRPA展開とは…?
気になるお話が飛び出しました!
是非最後までご覧ください!
▼後編【日本通運のRPA成功事例!ロボットが力を発揮した業務とは】
目次
- RPA導入にあたり持っている課題意識と目的
- どんな業務に導入しているか
- 使用ツールと使い分け方
- 目標達成のために立てた戦略/生まれた削減効果
- 依頼を断るときの対応/横展開のメリット
- RPAをうまく使うには人との信頼関係も重要?
• RPA導入にあたり、持っている課題意識や目的を教えてください。
井上:まずは労働力人口の不足です。これは弊社に限らず日本企業全体で言えることだと思います。
また、それに伴い労働力の高齢化も進んでいます。
運輸業というとトラックドライバーや、倉庫での仕分け作業をイメージされやすいかと思います。
しかし、実際は事務作業も多いです。日本国内に3万4000人の従業員を抱えているのですが、そのうち過半数の1万8000人が事務系社員です。
運輸業は荷物を運ぶのに発地から着地にかけて多くの従業員が携わっていて、色々な書類や事務手続が必要です。定型的な業務が多く、労働力不足が顕著になっています。
この状況から、ロボットと人間の棲み分けを進めるという目的のもと、RPA導入に取り組んできました。
定型業務はロボットが行い、人間はその時間で営業や企画、マーケティング、分析など本来人間がやるべき仕事に注力できるようにしています。
また経営的な側面から言うと、人件費が増大したという点もあります。
法制化される1年前から弊社は同一労働同一賃金の仕組みを取り入れていました。
労働時間の削減とともに人件費が高騰したことにより経営基盤を安定化させなくてはならず、ロボットが作業を行うことで事務の間接費を減らすという目的もありました。
• どのような業務にRPAを使っているのでしょうか?
井上:かなり多岐にわたっています。
輸送に関わる業務だと※1輸送モードごとに専門領域や扱っている仕事内容が違うのですが、さまざまな業務に対応しております。
輸送以外で言うと他の会社でも共通するような、経理業務や人事、教育など総務関連の自動化もどんどん行っています。
※1 輸送モード:陸は鉄道輸送やトラック輸送、空は飛行機、海は船など
• 使用しているツールはなんですか?
井上:RPA展開は2つの部門で行っているのですが、私が所属しているIT推進部ではUiPath、経営事業戦略部ではWinActorを使っています。
IT推進部はUiPathで汎用的な業務を自動化し、経営事業戦略部がWinActorで個別の横展開できない業務を自動化するという仕切りで行っております。
• なぜ2つの部門で展開しているのですか?
井上:より多くの社員にRPAを利用してもらうためです。
2018年10月に策定したIT中期経営計画で目標数値を定めました。
2019年度末までに40万時間、2020年度末までに70万時間、2021年度末までに100万時間、定型業務に掛かっている時間を削減するという目標です。
3年後に100万時間削減するのは途方もない数字だったので、全国的に同じように行っている業務にフォーカスを当て、自動化していく戦略にしました。
1個ロボットを作りパイロット店で検証・導入・保守・ブラッシュアップしたものを全国に配るというかたちでコピーロボットを増殖していきました。
1箇所で月10時間の業務だった場合、それが100箇所集まったら1000時間になり、年換算すると1万2000時間になります。
そういう業務を選定して標準化し、運用ルールやフォーマットも統一化して、横展開することで大きな効果を生み出していきました。
しかし横展開できない、特定顧客の輸送に関わる事務など、そのお客様の対応を行っている課所でしか実施していない案件はお断りしました。
なるべく多くの方にロボットの効果を体感していただくためには、何でも受けてしまうと開発チームのリソースが足りなくなってしまい、ロボットが増産できなくなるからです。
その代わり他の課所で導入されたロボットと同じ業務を行っていれば、導入時は要件定義のミーティングなど無しでコピーロボットを利用できるという利点があります。
一方、有効に横展開できない業務は残ったままでした。
経営事業戦略部は日本国内全支店の収支を改善するための組織なので、手元の業務が自動化されないという点を危惧して、自分達で開発できるRPAツールを導入しました。
2019~2020年当時はWinActorがITをやっていない方でも難なく開発できるという点がアピールされていたのでWinActorが選ばれました。
結果、2018年10月に定められたIT中期経営計画は、3年後100万時間削減の目標に対して108万時間達成しました。
今年度の目標は12月末までに150万時間削減ですが、9月30日の集計で151万9000時間を突破し、3カ月前に目標を達成しました。お陰様でうまく進んでいます。
• 対象業務を選定しているとのことですが、お断りした時の反応はどうですか?
井上:ITを頼ってくださる方に、お断りさせていただきますと伝えるのは一番心苦しい瞬間です…
こちらとしても本当はやりたいのですが、プロジェクト方針として定めた以上はその方針を貫いています。
反応は人それぞれで、もしご納得いただけない場合は誠心誠意説明します。
何か旨味がないとご納得いただけないと思うので、横展開の方針を取るメリットを強調します。
例えば他の支店で起案した業務は、導入までの負荷があまりかからず利用できるという点です。
また、標準化した横展開ロボットは、共有サイトに各ロボットの業務コンセプトとフロー、マニュアル、申込書を全部セットにして保存しています。
それを見て自分達も該当ロボットを使いたい場合は、申込書をサポートデスクの受付に送ってもらい2週間以内に導入する流れをとっています。そのスピード感も全面に強調しています。
一方的にこちら側からお断りして終了ではなく、何か利点を強調しご納得いただき、関係を切らせないことを意識しています。
そこで関係が終わってしまうと、次の案件を申請する気力さえも奪い取ってしまうからです。
結局人間同士でやっているので、正直に申し訳ないという気持ちが伝わらないとダメかなと思います。
私のプロジェクトの新規参画者にはまず「誠実に話をしましょう」と伝えています。
「誠実に」というのは、言い換えると「事実をきちんと伝えてください」ということです。それができないと信頼関係も失われます。
現場の依頼者に対しても同じことが言えて、依頼者とも誠実に丁寧に仕事しましょうと教えています。
そうして誠実にやることで、現場の人にもこちらの気持ちが伝わったらいいなと思いますね。
• RPAをうまく使うには人との繋がりや信頼関係も重要ですか?
井上:そうですね。それがなくなったら新たな依頼は来ないと思います。
ロボットは普通の業務システムと比べるとエラー率が高いです。でもうちはエラー率を全体で0.5%までに留めています。
そういう実績を出して、一個一個丁寧に仕事をすることで信頼を勝ち得ていきました。
KPIを達成するために数字だけを追い求め、削減効果の大きい仕事しかやらないでいると「現場を思ってない」と捉えられかねません。なので、数字が小さい業務も必要性があり定性的な効果があれば案件化しました。
また、導入したことで時間面だけではなく、精神の安定につながる部分もあると思います。
そういう面を総合的にヒヤリングした上で、どれを案件化していくか決めています。
現場の皆さんとの会話、コミュニケーションは本当に重要な要素となっていると思います。
大きな削減効果を生み出した背景には、RPAの「横展開」があったのですね! (後編ではもう1つのRPA展開方法、「集約型」の事例もご紹介します) はじめは3年後100万時間削減の目標に対し途方もない…と感じながらも確かな戦略を立て、結果として8万時間も超えて達成したというから驚きです。そして今も削減効果は大きくなり続けているとのこと。 RPAによってそれだけの時間が創出され、本来人間が注力すべき仕事に使えるようになるということは、社員だけでなく会社にとっても計り知れないメリットなのではないでしょうか。 また、取材前は運輸業というとドライバーなどのイメージが強く、従業員の過半数が事務系社員とは驚きでした! まだまだRPA展開を期待できる業界がたくさんありそうだな…!と思った筆者なのでした。 |
次週は社内でのRPA浸透方法や、成功事例、理想のDX像についてお届けします。
はじめは社内でのRPA認知度はかなり低かったのだとか…
そこで井上さんが行った施策とは…!?
更新をおたのしみに!
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