『RPA MEDIA』オリジナル執筆記事

 

未来予測の名著を読む その2

 

鈴木貴博=著

『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』

 

PHP研究所:東京、2020年6月刊

 

 

 

 

TEXT BY ERI KAWADE, SENIOR EDITOR, RPA MEDIA

 

「いよいよ来るべきものが来る10年間。2020年代はこれまで叫ばれてきたさまざまな危機が現実化し、7つのショックが起きることによって「日本が壊れる10年間」と後に呼ばれる時代になるでしょう。」

 

こんな穏やかならぬ警句で始まる本書。著者は、経済評論家で未来予測専門家の鈴木貴博(当時は、主に大企業をクライアントとして活動する経営戦略コンサルタントでもあった)。現在も、さまざまな経済系メディアなどでコラム連載も多数手掛けており、非常に高い信頼と人気を誇る論客である。本書が書かれたのは、2020年。同年2月に中国・武漢から世界に広がった新型コロナウィルスの感染拡大に、世界中が震撼していたさなかのことだ。しかし、刊行から4年近く経った今も、その内容はまったく古びず、むしろいよいよ説得力をもって迫ってくる。

 

本書の大筋をひと言で要約すると、まず、2020年代にあらたに日本社会を襲う「7つのショック」として、以下が挙げられる。

 

「●アフターコロナショック

●トヨタショック

●気候災害ショック

●アマゾンエフェクト

●人口ピラミッドの崩壊

●ポピュリズムショック

●デジタルチャイナショック」

 

そして、著者は「それぞれの変化は日本経済や日本社会に甚大な影響」を与えると言い、「いかに2020年代が日本にとっての大きな転換点なのか」を解き明かしていく。

 

まず、第1章「コロナショックでこれから何が起きるか」では、「ロックダウンの効果と経済的影響はどれくらいなのか?」「感染拡大と経済被害拡大のトレードオフという難問」「グローバル連鎖の脆弱性とモノ不足」「スタグフレーションが再来する可能性」といった項目ごとに、パンデミックが日本と世界の社会・経済に与える影響について論じられる。現在の目で振り返ってみても、その「予言」の精度の高さと的確さに驚く。

 

次に、第2章「なぜトヨタは衰退するのか」。ここでは、ソニーやシャープをはじめとする、かつては世界を席巻した日本の家電メーカーや半導体産業が、いかに1990年代以降、国際市場で零落していったかを振り返り、いよいよ、日本経済を支える一大産業である自動車産業の世界にも、怒涛の生存競争の時代が到来しつつあることを、詳細に分析していく。「CASE (Connected: インターネットを介してつながり、交通網のデジタル技術による制御と最適化、ビッグデータの活用の本格化、Automated:自動運転技術の普及、Shared:車を所有する時代からシェアライドするあらたなモビリティの時代への移行、EV:電気自動車の普及とアイリス・オーヤマのような企業や米中インドなどの異業種企業の自動車製造業への参入と競争激化、および、自動車の蓄電池化によるエネルギー産業のあり方の変化)」の時代に、大きく揺れ動く自動車=モビリティ産業の直面する課題をひとつひとつ取り上げ、世界的な動向の分析とともに、提示していく。本書の中でもとりわけ危機感と説得力に満ちた章となっている。

 

続く第3章「気候災害の未来はどう予測されているのか」では、「グレタさんがあんなに怒っている理由」「今世紀初頭の地球温暖化予測で警告されていた〝今の危機〟」「2020年代に日本を襲うと予測される「熱波」」「青森県がみかんの産地に変わる日」「ベニスは水没する運命なのか?」「地球温暖化を止めない人たち」などのわかりやすい項目立てに沿って、現在、私たちが直面している地球温暖化と大規模自然災害の行方について論じられている。また、続く第4章「アマゾンエフェクトが日本の流通を破壊する日」では、小売業はもとより、メディア産業、音楽業界、既存のスーパーマーケットやコンビニをも脅かすであろうアマゾンの今後の事業展開とその影響について分析される。

 

そして、第5章「確実に起きる人口問題の不確実な解決方法」では、「2030年の人口問題」「外国人労働者が500万人規模で増加する社会」「日本の外国人人口はセミグローバル許容ラインを超える」「日本に移民奨励政策はありうるのか?」「AIがもたらす正社員の消滅」などのテーマに沿って、著者は、現実味溢れる論証で、今後、大きくさま変わりしてゆくであろう日本の人口と労働問題の核心に迫っている。さらに第6章「半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち」では、「なぜポピュリズムの時代が始まったのか?」という世界的潮流の分析紹介に始まり、「日本でもポピュリズム爆発の危険が高まっている」と警鐘を鳴らし、しかしこうした変化に対応できていない政治と官僚制度の硬直に対し、批判的分析と提言を試みている。

 

そして最終章にあたる第7章「日本崩壊を止めるには」では、「変えられない未来と変えることができる未来がある」と語り、ここまで繰り広げてきた未来予測を現実に回避するための、示唆に富む多様な提言がなされており、非常に読み応えのあるエンディングとなっている。「ワークスタイルから変わる未来」「一律10万円給付金は「ベーシックインカム」の社会実験」「アフターコロナとデジタルチャイナ」「なぜトヨタ問題が2020年代最大の問題なのか?」「このままいくとトヨタはどうなるのか?」「「(トヨタとアリババ、テンセント、バイドゥ、グーグルなどの)巨大IT企業との対等合併」というウルトラC(の可能性)」「2030年のセーフティーネット」など、ヘッドラインをいくつか紐解くだけでも、ここで論じられている提言がいかにスリリングかつリアルなものか、察しとっていただけると思う。

 

そもそも、本書の冒頭で、著者はこのように読者に語りかけている。

 

 

「このレポートが描く「日本が壊れる10年間」についての予測が結果として外れれば、日本は壊れずにすむかもしれません。

 予測された未来は変えることができる。それは確度の高い〝予言〟ですらそう言えます。その観点で、本書の最後の章では、トヨタを衰退させない方法を含めて「変えられる未来」についても提言することにしました。

 私たちの意思や行動が変われば、未来も変わる。壊れる定めも止めることができるはずだ。その意識で本書を手に取っていただきたいと思います。」

 

こうした言葉からは、私たちがこれからどんな日本社会をつくってゆきたいのか、どんな世界に暮らしてゆきたいのか、そのヴィジョンとリアルな行動力があれば、未来は変えてゆくことが可能だという、著者の信念や期待が伝わってくる。

そして、それは、本書のラストに添えられた「おわりに」というエピローグの中でも、より差し迫った言葉でリフレインされている。

 

 

「2020年代は一億総情報弱者の時代になるでしょう。世界に溢れる情報量が人間では処理できない規模に膨れ上がっていくからです。」

 

「そうなると世界で一番賢い者でも部分的な情報で物事を判断しながら毎日を過ごす時代になります。すべての人が限られた情報をもとに行動するようになる。政治世界のリーダーも企業のトップも、部分的な情報しかわからないで重要な判断を下すようになる。一億総情報弱者、ないしは世界の70億人が総情報弱者の時代がやってくるのです。」

 

「なぜ自分がその生活を送っているのか。他の選択肢はなかったのか。その生活から抜け出すためにはどうしたらいいのか。そういった情報を探すことが非常に難しい時代がやってきます。

 その裏にはビッグデータとか人工知能とか2020年代を変えてしまう要因が存在しているのですが、それらの存在によって情報がコントロールされ、気づかないうちに居心地が良く、かといってそこから抜け出すための情報を得ることが難しい時代になるのです。

そうなる前に、つまるところまだ日本がなぜ壊れていくのかを人間が分析できる時代のうちに、人間ができる未来予測レポートを手に時代を変える努力をする。その最後の時代に本書が少しでもこの国の役に立てれば、著者にとってはこれほど嬉しいことはありません。」

 

興味を持たれた方は、ぜひ手に取って読んでみていただきたい。

次回は、本書の続編にあたる同じ著者による一冊をご紹介する。

 

 

 

★鈴木貴博の公式ウェブサイトは以下

https://www.hyakunen.co.jp

 

★本書の出版社ウェブサイトは以下

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84708-5

 

 

 

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